Prime Interview 福田進一

掲載日:2026年7月17日

2010年に第1回が開催された大阪ギターサマーは、コロナ禍による2度の中断をはさみ、2026年で第15回を迎える。いまや夏の風物詩として定着し、国内外のギタリストを紹介したり、すぐれたギター作品にスポットを当てたりするだけでなく、次世代のギタリストたちの育成や発掘という面でも重要な役割を果たしている。とりわけ近年は、かつてここでマスタークラスを受けた関西出身の若手ギタリストたちが、多方面で際立った活躍をみせるようになり、もはやギター文化を支えるうえで不可欠なイベントになったとさえ言えるだろう。そうした大阪ギターサマーにおいて、演奏とプロデュースの両面で重責を担う福田進一に、イベントのこれまでとこれからについてうかがった。          (小川智史/音楽書編集者)

ギターで大阪を盛り上げる、

そうしたイベントのフラッグシップであり続ける

 

もともと大阪ギターサマーはどのような意図で始められたのでしょう?

 

 もう50年ほど前の話になりますが、私がパリ留学する前後、1970年代頃のギター界は“西高東低”と言われていて、才能のある若いギタリストが関西に集まっていて、とても活気がありました。もちろん当時から東京で活躍されていた方もたくさんいらっしゃるので、一概には言えませんが、私たちの世代にはそうした感覚があります。

 同じパリ留学組だと、コンセルヴァトワールを首席で卒業した稲垣稔さんがいて、パリ国際ギターコンクールで第2位を獲った10弦ギターの岩永善信さんがいる。バーゼル(スイス)留学組ですがシエナ・キジアーナ音楽院(イタリア)で私と同じオスカー・ギリアに師事した松永一文さんも大阪生まれ。少し上の世代だとリュートに転向した今村泰典さんや佐野健二さんも関西出身です。北海道出身の藤井眞吾、敬吾兄弟も大学から関西に来ますし、少し下の世代の北口功さんや岩崎慎一さんも大阪出身です。

 ただ、優秀な若手はヨーロッパに留学してしまうし、ギター界の話題はコンサートの多い東京に移ってしまう。昔のような盛り上がりを取り戻そうというのが、大阪ギターサマーを始めたときからのコンセプトです。いつもマスタークラスを開催しているのも、その土壌作りのためですね。

 

同じく毎夏開催している東京のHakujuギターフェスタとは、マスタークラスがあることが違いますね。

 

 マスタークラスは受講生だけでなく、聴講生がいることも重要なので、大阪の土地柄でどうすれば興味を持ってもらえるのか、最初の頃は試行錯誤しました。今いい雰囲気でマスタークラスを続けられているのは、15回やってきたなかでうれしいことのひとつです。

 また、かつて大阪ギターサマーでマスタークラスを受講した子とステージで共演する機会も最近増えてきました。硬派なクラシック作品に取り組み続けている徳永真一郎さんやリュートに転向して活躍している会所幹也さん、ロックをレパートリーに取り入れて新しい聴き手を獲得している猪居亜美さん、ジャズの勉強もして作曲方面でも活躍している閑喜弦介さんなど。

 実際に今年の大阪ギターサマーでは徳永さん、猪居さんと共演しますが、ギターで大阪を盛り上げる、そうしたイベントのフラッグシップであり続けるという流れを、次の世代の演奏家に受け渡すことができたのは、大きな成果として実感しています。

 

そのような生徒さんたちの成長をご覧になっていかがですか?

 

 実のところ、彼らに対して私が“教師”だったという感覚はありません。私の目の前に現れる子たちは基本的に、すでにどこかで上手になっていて、あまり“教える”という気持ちで接していません。刺激を与えたり、道を示してあげたりして、少しでも高いところに引き上げられるかどうかが、私にできる精一杯のことですね。アンドレ・ジッドが小説『狭き門』で描いた「力を尽くして狭き門より入れ」のような。

 だから私は、教えた子たちのスタイルやキャラクターが私と似て「いない」ことが大事だと思っています。上手に真似できるようになったところで、自分自身の個性を見つけられなければ、長い目でみて伸びていきません。

 現代は特に、YouTubeなどの登場で演奏が没個性化しやすくなっています。才能を探すプロデューサーの側も、玉石混交の中から「玉」を見つけ出すのは難しくなったと思います。これはいろいろな国のギタリストと話していて世界的な現象だと感じていますし、危機感も抱いています。

 

大阪ギターサマーではこれまで、フェルナンデスやカネンガイザーのように長く第一線で活躍されている方から、ディラやジューヴ、エスコバルのように、なかなか来日が実現しなかった新世代のギタリストまで、様々な海外ギタリストと共演されてきましたね。

 

 海外のフェスティバルで共演したギタリストたちに声を掛けて、定期的に出演してもらっていますが、世界にはいろいろなキャラクターをもったギタリストがいるということを大阪の人たちに紹介できたのは、意義のあることだったと自負しています。ギタリストたちにも、ザ・フェニックスホールというクラシックギターに適した音響のユニークな空間で演奏できることを喜んでもらえています。

 

今後共演したい方や、実現したい企画などはありますか?

 

 今年の台湾国際ギターフェスティバルに出演してもらったイタリアのアンドレア・デ・ヴィティスを日本にも招きたいですね。あとは何度か来日はしていますが、フランスのガブリエル・ビアンコも大阪ギターサマーで共演できたらと思っています。彼らがコンクールを受けていた頃から審査員として接していますが、日本にも紹介したい優秀な若手です。

 また、現実的にはなかなか難しいですが、やはりギター以外の楽器が入った室内楽作品を演奏できるようになるといいですね。音楽業界に活気があった1990年代頃は、もっと高い頻度で室内楽作品に取り組めましたが、今はギターのお客さんに合わせたプログラムにしないとなかなか企画できない。こうした課題は今後ホールの方々とも考えていきたいと思っています。

 

では最後に、15回目となる今回の大阪ギターサマーの聴きどころをお教えください。

 

 今年はHakujuギターフェスタも20周年ということで、そちらを共同プロデュースしている荘村清志さんをゲストにお迎えします。もちろんそれぞれソロも弾きますが、Hakuju Hallとザ・フェニックスホールが共同委嘱した新作ギターデュオはぜひお聴きいただきたいですね。新世代のコンポーザーギタリストとして注目されている広島出身の大坪純平さんにお願いしています。また、先ほどお話しした徳永真一郎さんと猪居亜美さんを加えたカルテットで、2019年の大阪ギターサマーで委嘱・初演された林そよかさんの《4つの海の物語》を久々に再演するので、そちらもぜひご期待ください。