Prime Interview 中川優芽花

掲載日:2026年4月14日

クララ・ハスキル国際ピアノコンクール、ロベルト・シューマン国際コンクールでの優勝をはじめ、着実にキャリアを重ね注目を集めているピアニストの中川優芽花。デュッセルドルフで生まれ、ロベルト・シューマン音楽大学のジュニアコース、ロンドンのパーセル音楽院を経て、2021年からはワイマールのフランツ・リスト音楽大学で研鑽を積んでいる。2025年10月は第19回ショパン国際ピアノコンクールに出場。聴衆の心を深く打つ演奏により、さらに多くのファンを増やした。さらに同年には「岩谷時子 Foundation for Youth」を受賞し、待望のデビューアルバム『中川優芽花 デビュー!』もリリース。タワーレコードで行われたリリース記念イベントには多くの聴衆が押し寄せ話題となった。そんな彼女がついにザ・フェニックスホールに登場。いま最も中川の演奏で聴きたい作品が次々と披露されるプログラムだ。            (長井進之介/ピアニスト・音楽ライター)

全世界が魅了された才能!

中川優芽花が初めてザ・フェニックスホールに登場

 

ザ・フェニックスホールでの演奏は初めてとお聞きしました。

 

以前からホールの写真などを拝見していて、とても美しい場所だなと思っていました。今回演奏させていただけることがとても楽しみです。

 

―今回のリサイタルではロマン派を代表する、そして同時期を生きた作曲家であるショパンとシューマンの作品を演奏してくださいますね。

 

ショパンについては、ありがたいことにショパン国際ピアノコンクールの反響がとても大きく、ショパンを聴きたいというお客様も多いと思い選びました。シューマンはこれまでずっと演奏してきた、私にとって大事な作曲家です。今回はぜひこの二人を組み合わせたいと思いました。

 

―ショパン国際ピアノコンクールは全世界にライブ配信されており、それを視聴した多くの人々が中川さんの演奏に魅了されていました。私もその一人です。中川さんの演奏は作品からさまざまな表情や色彩、景色を見せてくれるものがありました。

 

ショパンは実はこれまで演奏会で取り上げる機会はあまりありませんでした。ポーランド人の先生に習っていたこともあり、そのときはよくレッスンを受けたりはしていたのですが、どちらかといえば苦手意識がある作曲家でした。聴くのは大好きなのですが、いざ自分で弾こうとすると彼の音楽の本質をとらえて音として聴き手の皆様に届けるのが本当に難しくて…。もちろん技術そのものが大変というのもありますし、すべての音を響かせながら最良のバランスで届けるということにも苦労していました。ただ、やはりコンクールを通してたくさんの曲を演奏するようになり、以前よりも曲の理解度も少しずつ上がってきているのを感じています。昔よりは苦手意識は薄れてきましたね。

 

-以前と比べてとくに自分の中で大きくショパンについての苦手意識が変わった部分などはありますか?

 

時期によっても違いますね。私は練習のなかで、だいたい“今はこれが自分の課題だ!”というようにテーマをきめて、それを2~3か月くらいで克服する、というようなことを課しています。それができるようになってもまた身体になじませていかなければなりませんし、また新しい課題も出てくるのですが…。最近は別の機会でショパンのピアノ協奏曲を演奏する機会があったのですが、オーケストラと演奏していると、ピアノを打楽器的に弾いてしまっていることに気がつきました。改めて、もっと深い呼吸で、密度の高い音を出し、弦楽器のように歌えることを目指したいと思いました。ただ、あまり考えすぎるとかえってうまくいかなくて…。もっとシンプルに、ヴァイオリンを弾いている自分をイメージして腕や手首を使ってみると意外とそれに近づけることに気が付いたのです。

 

―ショパンは今回「幻想ポロネーズ」やピアノソナタ 第3番といった後期の重い作品を選ばれましたね。

 

基本的に重く複雑な内容のものが好きなのです。それをどのように紐解いて、曲の持っている素晴らしさをお客様にどれだけわかりやすくお伝えできるか、ということを考えるのがとても楽しいですね。特にショパンの場合、後期になればなるほど彼の人生が垣間見えるものになっています。曲を通してショパンと対話できるような感覚があります。

 

―「幻想ポロネーズ」は後期ということもありますし、「ポロネーズ」というショパンにとって故郷を思うとても大切な楽曲ジャンルということもあり余計に難しさが増しますよね。

 

踊りや民謡など伝統的に国で受け継がれているものは、その国の方たちからすれば血や肉となっているものであり、当たり前に自分の中に息づいているものですよね。ですから論理的に理解しようとしても本質を得ることはできないと思います。だからこそ外国人である私はたくさん踊りを見て、経験して、そして色々な演奏を聴いて自分の中に落とし込んでいくしかありません。そのなかで自分なりの答えを探し出そうと常に努力しています。


―ピアノソナタ 第3番も後期のショパンを代表する大作です。

 

楽章同士が対照的な性格なので、それらの特徴をどうとらえて表現するかにかかっています。とくに第1楽章は複雑で、バッハを思わせる対位法も使用され、曲想も次々に変化していきます。これをまとめあげて皆様にお届けするのは大変な作業ですが、とても楽しいです。

 

―シューマンは先日リリースされたCDにも「子供の情景」が入っていますし、改めて中川さんにとってなくてはならない作曲家ですよね。今回は「アベッグ変奏曲」と「幻想小曲集」を披露してくださります。

 

《幻想小曲集》は以前からよく弾いている曲で、個人的に大好きな曲集でもあります。ただ、同時にこれまで弾いたあらゆる曲の中でも特に難しいといっても過言ではありません。はじめて弾くようになってから1年ごとに練習して熟成させて演奏会で弾く、ということを繰り返しています。本当に細かな音楽の仕掛けがあり、それをすべて表現できれば音楽がより魅力的なものになるのですが、自分が思っているようなものができるようになるまで、少なくともあと10年はかかると思います。特に第6番の〈寓話〉や第2番〈飛翔〉が好きなのですが、リズムやポリフォニーの要素やそのバランスなど細かいニュアンスの変化に富んでいるので、それを表現するのがとても難しいですね。だからこそどんどん磨き上げていきたいですし、いまの私のこの《幻想》をみなさまにお聴きいただけたら嬉しいです。《アベッグ変奏曲》は新しいレパートリーです。シューマン音楽大学のジュニアコースに通っていた時に大親友がずっと弾いていて、いつか弾いてみたいと思っていた思い出の曲です。今回、プログラムが感情的にかなり重くなる作品が多いこともあり、こういった少し軽やかなものも入れて、自然とショパンのソナタに向かっていければというところで入れてみました。

 

―今回のプログラムは、中川の進化し続けるピアニズムと音楽性を存分に楽しむことができる、極上の時間となりそうだ。