Prime Interview 福田進一さん

若いギタリストの個性が輝いて、そこに人が集まるようになれば。

掲載日:2021年5月14日

毎年8月、ザ・フェニックスホールで行われているギターフェスティバル「大阪ギターサマー」が、いよいよ11年目を迎える。大阪が生んだ国際的なギタリスト、福田進一をリーダーに、国内外から多彩なギタリストを招聘。彼らと福田とのジョイント・コンサートを軸に、公開マスタークラスやギター・アンサンブルのワークショップを組み合わせた2日間にわたるギターの祭典だ。2010年にスタートしたこのプロジェクトは、現在ギター人口の拡大や若手演奏家の育成など、関西における総合的なギター音楽の拠点へと成長を遂げている。が、おりしも2020年はコロナの年、「大阪ギターサマー」もひと夏の休止を余儀なくされた。そして迎えた今年。これまでの10年を振り返って、福田進一にプロジェクトの成果と課題、次の10年に向けての思いなどを訊いた。演奏家として、指導者として確固とした信念とギターへの献身、そして何よりも若い世代に寄せる期待の大きさが印象的なインタビューとなった。
(取材・文:逢坂聖也/音楽ライター)

 

 

僕とは違った個性の成長が楽しみ

 

――大阪ギターサマーの10年を振り返った感慨から。

 

あっという間でしたね。Hakujuホールとの連携で、いいギタリストがたくさん呼べました。ロマン・ヴィアゾフスキーやマルシン・ディラ、ジェレミー・ジューヴ。彼らは次世代のヨーロッパのギター界を牽引するような存在です。ウィリアム・カネンガイザーは現役の素晴らしいギタリストだし、そんな人たちを紹介できたのは本当に大きいと思います。あとお客さまが大阪ギターサマーの公開マスタークラスというものについて、少しずつだけれどもわかってきてくれているところがあります。公開レッスンは本当に手応えがあって、来られる方もレッスンを演奏会場で聴くというのが面白いことだなっていう風に思ってくれている。それは毎年やるごとに感じています。

 

――関西のギターの水準が上がってきたという実感は?

 

若い人がしっかりしてきた感じはあります。ただスタープレイヤーが出てきていないので、彼らがもうちょっと自由にというか、変な言い方をすれば暴れてほしいですね。暴れてくれるところにまでは至っていないというのが実感です。でも今、コロナだから暴れようにも暴れられないですね。だからもうちょっと待ちましょうっていうところです。

 

――コロナの影響はどのように出ていますか?

 

まずコロナ以前に欧米の状況として、まったく演奏の仕事がないんですよ。クラシックギターを弾く人ほとんどの人は、先生として音楽大学に就職することを望んでいるという現状ですね。多くの人は演奏家になることを考えなくなっていて、そこへコロナが追い打ちをかけた。今や日本が世界で一番ギターが弾かれていると言うか、活気があると言ってもいいほどです。

 

――日本にギターが根付いているとみてよいのでしょうか?

 

 

そういうことです。日本に根付いているということです。さらに言うと今、国際コンクールというものがほとんどリモートになってしまった。全米ギター協会(GFA)が主催する国際ギターコンクールというのがあって、それが去年はコロナで非常に危ういというので1次予選はリモートになりました。僕は審査員長をさせていただいたんですが、結局2次の本選は中止になりました。そうした事情もあって詳しく内容は公表できないんですが、予選の段階でこの大阪ギターサマーにも参加しておられる猪居亜美さんが非常に高い点を取っていて、セミファイナルまで進んでいます。もしあれで本選が開催されていたら、かなりのニュースになっただろうし火付け役になったと思いますね。関西ではこれから彼女が伸びて来るだろうということが、期待の1つになると思います。

 

――愛好者やアマチュアも含めた、ギターを取り巻く環境という点ではいかがでしょう。福田さんは2019年に公開された映画『マチネの終わりに』でギター監修を務められましたが、そのあたりから感じられたことなどはありますか?

 

手応えはありましたね。一般の人にクラシックギターを知ってもらったことの意味は大きいと思います。今はジャンルの境目がとてもあいまいになっていて、一般の人にはアコースティックギターとクラシックギターの違いがわからないんです。それを監修という立場から、いや本当はこうなんだよ、こういう世界があるんだよということを提示することはできたと思います。こんな素晴らしい音楽があるんですね、クラシックギターのファンになりましたって言う、お手紙もいっぱいいただきました(笑)。

 

――映画の挿入曲『幸福の硬貨』はたくさんのギタリストの方が弾いています。あのような曲があることでギターへの関心も高まりそうな気がします。

 

僕自身はまだステージでは数回しか弾いてないんですよ。映画は福山雅治さんの演奏だから。でも楽譜が出版されたので、それを見て若い人たちがYoutubeなんかにアップしましたね。僕もあの菅野祐悟さんの曲の出来はとても良いと思っているので、もう少し広めたい気がしています。

 

――今回の大阪ギターサマーのゲストは大萩康司さん。日本人のギタリストとしては2011年、第2回の鈴木大介さん以来2人目です。日本のギターの進化を表しているようにも思えます。

 

2人ともすごいギタリストになりました。彼らには僕と同じだったら生き残れないから、違う個性を持ったギタリストにならんとあかんよ、ということをずっと言ってきたんです。(鈴木)大介はジャズや即興や作曲をやったりして、彼の個性を創ってきた。大萩も僕とは違う個性を演奏に出すようになってきた。村治(佳織)さんもそう。僕の教え子たちが、それぞれ僕とは違うことをやってくれているのをとても誇りに思います。去年『DUO2(デュオ2)』と言う、以前、僕と荘村清志さんでやったような二重奏のアルバムを出しました。今回はそこに大介と大萩が入ってるんですね。すべての曲で彼らの組み合わせがしっかりと成立しているので、非常に満足感の高い仕上がりになりました。

 

――これまで福田さんがやって来られた事が実を結んだ形ですね。

 

全部をそういう風にして行きたいんですよ。今、大阪で育っている猪居謙君や亜美さん、岩崎慎一君や益田展行君、彼らは僕の直接の生徒ではないけれど、1人1人の個性が輝いて、そこに人が集まってくるようになったら僕はもう安心して後を譲れるんですけど・・・。まだちょっと譲られへんな。だからもうちょっとだけ辛抱していただこうかなという感じですよね(笑)。

 

――コンサートは2日目の8月29日。内容をうかがえますか。

 

コンセプトは新古典主義。バロックと、バロック風に作られた近・現代の音楽を組み合わせて演奏します。大萩が弾くブローウェルの『ラ・グラン・サラバンダ』は、ブローウェルがギターの曲の中で最大のものにしたいと言って今も書き続けている作品。僕はポンセの『スペインのフォリアによる変奏曲とフーガ』を短いバージョンで弾きますが、これは20曲の変奏とフーガでできた作品で、第二次世界大戦前に書かれたギター曲の中で一番サイズが大きいものです。ともに世紀の初めの方に書かれた規模の大きな変奏曲に2人がチャレンジするというのがひとつと、後半にヘンデルのシャコンヌを演奏するというのもポイントです。この作品ももともとチェンバロの非常に大きな変奏曲なので、2台のギターで弾くのはとても美しいしレパートリーとしても重要なものです。きっとお楽しみいただけると思います。