メナヘム・プレスラーさんインタビュー

「曲の心臓」求め共に歩む

掲載日:2010年11月17日




12月8日(水)夜、ザ・フェニックスホールでアントニオ・メネセスと共演するピアニストはメナヘム・プレスラー。ドイツ生まれ、イスラエルを経て米国に移住。ピアノトリオの代名詞といわれた「ボザール・トリオ」のメンバーとして長くキャリアを重ね、72歳の折、カーネギーホールでリサイタルデビューした。今年12月に87歳を迎えるが、いまなお各地で後進の指導にあたりながら、現役のソリストとして活動を続ける、まさに「大器晩成」の名匠である。メネセスと同じ質問に、答えてくれた。

         アントニオ・メネセスと共演する「大器晩成」ピアニスト

          メナヘム・プレスラーに聴く



Q1 ベートーヴェンのソナタ一番の冒頭で、チェロとピアノのユニゾンが完璧に一緒なことに大変に感心しました。どうやったらあそこまで完璧に一緒に弾けるのでしょうか?発音も音程もぴったりと一緒になっていますよね。トリオでの演奏が役に立っているのでしょうか?

プレスラー(以下P) もちろん、トリオを弾くことによって、私はバランスを見つけてきました。ピアニストである自分がバランスを決定づける存在になります。一緒にトリオで長いこと弾いてきましたので、二人でソナタをリハーサルをする際にも、トリオの時と同じようにリハーサルします。もちろん完璧というのはあり得ないけれども、ベートーヴェンであれ、ブラームスであれ作曲家がこのソナタに込めた深さとメッセージを、発見していこうと努力します。ある意味、我々は成功していると思う一方、振り返ってみると、不満に思える箇所がいくつもあります。自分に対して、私は一番厳しい批評家なんです。

Q2 弦楽器みたいな音はどうやったら出るんでしょう?

P  4年私のところにレッスンに来れば一緒に見つけられるよ・・・(笑)体のコントロールなんですが、それ以上に、弦楽器の音を自分の耳の中で聴くことが出来るかどうかの能力の問題です。それが聴こえてくればもうこっちのもの。それを目指せばいいだけですから。聴こえてくれば、それはあなたがどう音楽を造るかが自ずと決まって来る。「こういう音が欲しい」という理想があること自体が、自分の中でその音が聴こえているということなんです。理想の音というのは、体でなく耳でさがすものです。

Q3 チェロを弾く上で、いちばん大事なことは?

P  曲に対する考えが一致していることです。同じものを目指していること。二人の性格はもちろん違っていいのです。曲がどう出来ているのか、曲の心臓部はどこか、といったことを、リハーサルで苦労しながら共に見つけていくのです。それには、この困難な過程を、いやがらずに一緒に歩める共演者が必要ですよね。難しいパッセージを弾くよりも、この探求の過程のほうがよほど難しい。本当に難しく、拷問のように思えることさえある。楽曲の謎と対峙するわけですから。

Q4 トリオとデュオの違いは?

P  基本的には変わりませんね。3人いれば、ヴァイオリンの色彩が加わります。もちろん作曲家はそれを知っていますから、ヴァイオリンの色彩を使います。ピアノはいずれの場合も、強さでグループを支えられます。音量は2人だろうと3人だろうとそう変わりません。3人いれば、音色に変化がつけやすい、ということは言えると思います。トリオのレパートリーはとても豊富ですし、ソナタについても同じことが言えます。今、ショパンのソナタを練習していますが、とてつもなく豊かな曲です。私の考えでは、不公平にも技巧的なだけな曲だと思われがち・・・技術だけで弾き飛ばすイメージがありますが、ショパンはとても繊細な音楽家ですから、そんな雑なことはあり得ない。速く大きく、と言ったことは通用しません。自分が見つけたそういう楽曲の要素を、ちゃんと表現していくのが私たちの役目です。

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Q5 ベートーヴェン3番のソナタを選んだ理由は?

P  バッハとベートーヴェンの夜になりますので、この曲は言うまでもなくとても説得力のある曲ですから、ふさわしいエンディングです。ベートーヴェンのキャリアの中でも傑作がたくさん生まれた時期に書かれていますよね。

Q6 パートナーについて

P  チェロ弾きとして、今日いちばん傑出した奏者の一人だと思います。技術的にはもちろん恵まれているし、音も素晴らしい。とても探求心の強い音楽家ですし、トリオで長年一緒に弾いていますので、私にとってはよきパートナーだと思ってます・・・彼はどう思っているかは彼に訊いてくださいね。

Q7 あなたにとって、音楽とは・・・

P  「あなたにとって空気とはなんですか?」「あなたにとって食べ物はどういう意味がありますか」という質問と同じですね・・・呼吸しなければ生きていけないし、食べないと生きていけない、私にとって音楽はそういう存在です。

Q8 将来やってみたいことは・・・

P  ブラームス、シューマン、グリーグ、ショスタコーヴィッチなどいろんな曲をもっと弾きたい。

Q9 ベートーヴェンのソナタについて・・・

P  聖書のようなものです。バッハを軽く見ているわけではありません。バッハはもちろんとても重要なレパートリーですが、ベートーヴェンは、人生のこの時期に於いてより深いところに問いかけるものがあります。シューベルト、シューマンなどなど愛してやまない作曲家はたくさんいます。でもベートーヴェンの音楽の偉大さは特別です。心の様々な面に語りかけてくるからです。

                                                                                                                          構成:テレビマンユニオン

アントニオ・メネセス(チェロ)
1957年ブラジル生まれ。ベルリン・フィル、コンセルトヘボウ管、ウィーン・フィルなど世界の主要オーケストラや、カラヤン、ムーティ、アバドら名立たる指揮者と共演。室内楽にも積極的で、1998年から世界的ピアノトリオ、ボザール・トリオのメンバーとなり世界ツアーを行った。録音は、貸与されたカザルスのチェロ「ゴフリラー」でバッハの無伴奏組曲全曲を発表するほか2008年、ボザール・トリオのピアニスト、メナヘム・プレスラーとベートーヴェン全集を発表し、高い評価を得ている。

◆メナヘム・プレスラー(ピアノ)
1923年生まれ。1946年サンフランシスコのドビュッシー・コンクール優勝。フィラデルフィア管弦楽団と協奏曲を共演、カーネギーホールデビュー。セル、オーマンディ、ストコフスキーなど往年の指揮者と共演。55年、ギレー(Vn)、グリーンハウス(Vc)とボザール・トリオを結成。解散まで53年間、創設メンバーとして活躍。96年、72歳にしてカーネギーホールでリサイタル・デビュー。現在インディアナ大学で教鞭を執り、各地で講習会を開催。ヴァン・クライバーン、エリザベート王妃、アルトゥール・ルービンシュタインといった各国際コンクールの審査員も務める。

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