12月8日(土)午後  「真実の響き」フルート公演で〝デビュー〟

耳目で楽しむ、名器の妙 修復の山本宣夫さんが語る、いにしえの音色

掲載日:2012年11月9日

12月8日(土)16:00開演(15:20~プレトーク)、あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールが開く企画「真実の響き-18・19世紀フルートリサイタル 榎田雅祥(フルート)&上野真(フォルテピアノ)」公演。ヨーロッパの宮廷やサロンで使われたフルートの音色で、普段聞きなれたフルートの音色を問い直すコンサートだ。この公演のもう一つの聴きどころは、伴奏に使われる鍵盤楽器。「フォルテピアノ」と呼ばれるピアノの前身の古楽器を2台使用する。中でも1900年頃にウィーンで作られたとみられる「ベーゼンドルファー」は、優美・華麗な音色と、黄金の装飾を楽器全体に散りばめたきらびやかなデザインが特徴。あのニューイヤーコンサートでお馴染みの、柔らかな「ウィンナトーン」が、この日は鍵盤で紡がれる。いにしえの楽器を確保・修復・復元し、今公演に提供して下さる山本宣夫さん(フォルテピアノ・ヤマモトコレクション代表=大阪府 堺市)に、楽器にまつわるお話を伺った。

Q フォルテピアノを修復する意義は?

古い楽器を現代によみがえらせることで、多くの人々が実際の音を聴く機会を持ち、体験を通して本物の音を、そして本当の音楽の姿を知る。そんな場作りの礎(いしずえ)になれる点です。現在のピアノと、たとえばモーツァルトの時代のピアノは全然違うものなんです。日本ではあの大きな黒いピアノでモーツァルトもベートーヴェンも弾いていたと考えられがちですが、実は違う。もちろん奏法も異なります。ヨーロッパの音楽の愛好家なら知っている人も多いのですが、日本の音楽の教科書にはまずこういった歴史は記載されていません。でも実際に聴いていただければ、その違いは必ずお分かりになるでしょう。さまざまな作曲家が生きた時代と現代。この間の歴史をつなぎ合わせるための楽器を私はよみがえらせている、というところなのだと思います。

今公演で使用されるベーゼンドルファー(1900年頃、ウィーン)

Q かつて、山本さんはウィーンのベーゼンドルファー社で修業をされていますね。
どんなメーカーですか。

1829年の創業で、創業者であるイグナーツが修業していた時代はまさにベートーヴェンが活躍していた時代にあたります。その当時から「楽器全体を鳴らす」という音づくりのポリシーは一貫して変わりません。音の繊細さで勝てるピアノは、他にないと私は思っています。ピアノ本来の伝統的な技法を現代に伝えるメーカーであり、その音を自分の技術に取り込みたくて、私はベーゼンドルファーで修業をしました。

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バルトロメーオ・クリストーフォリ(1726年フィレンツェ) 
1999年 山本宣夫修復


Q そんなベーゼンドルファーが1900年頃に生んだと考えられているこの楽器。特徴はどこに。

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この楽器は、ピアノの歴史でも重要な存在です。ピアノはより大きな音で、また広い音域で音楽が演奏できるよう、変化を遂げてきました。大きな音を出すには、より強い張力で弦を張ることが必要です。昔のピアノは全て木製で、弦も木の枠に張られていたのですが、張力に耐え得るよう、新たに鉄の枠で支えなければならなくなった。また、低音から高音まで豊かな響きを確保するために、弦をチェンバロのように平行ではなく、現在のピアノのように交差させて張る方法が考案されました。このピアノは、こうした2つの現代に通じる特徴を持ちながら、一方でハンマーの部分は旧式のウィーン式を残してもいます。ウィーン式はモーツァルトの時代からあるものです。この楽器の製作当時は、いわば転換期にあたり、近代的なメカニックが増えていく中、昔の響きを愛好する演奏家の要望に応えて作られたものだと考えられます。ちょうど未来と過去との接点にあるわけです。同じような特徴を持つ楽器はもともと多くないうえ、戦争でその多くが焼失してしまったこともあり、特に日本できちんと聞ける状態のものは数えるほどではないでしょうか。


Q どのように入手、修復をされたのですか。

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25年程前に、ウィーンのコレクターから購入しました。もとの所有者については詳しいことは分かりません。サイズや装飾から、上流家庭のサロンなどで使われていたものではないでしょうか。特に大きな痛みはなく、ハンマーと響板のみ修復しました。今公演のために1年かけたんですよ。あとはもう演奏者(上野真氏)のリクエストに応え、細かな調整をするだけ。外装はそのままです。本格的な公演に出すのは今回が初めてなんですよ。

Q 今回の演奏会の聴きどころは。

やはりウィーンの伝統的な音色を聴いてほしいですね。ピュアなウィンナトーンです。また、豪華な装飾にも注目してください。フォルテピアノは当時、弾いて楽しむ楽器としての役割のほかに、一方でサロンに置いて、外観を楽しむ調度品としての役割も併せ持っていました。このベーゼンドルファーはその雰囲気をそのまま持つピアノです。現代のピアノとは全く違うピアノを、耳でも目でも楽しんでいただければありがたいですね。

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山本宣夫(やまもと・のぶお)
1966年からピアノの製造、修理に携わる。1983年ウィーンのベーゼンドルファー社で研修。その後、オーストリア・ウィーン芸術史博物館の専属修復師に就任。以後、毎年同博物館で修復に携わる。1998年フォルテピアノ・ヤマモトコレクションのためのホール「スペース クリストーフォリ 堺」をオープン。1999年バルトロメオ・クリストーフォリピアノ(1726年製)の復元楽器を制作。この復元楽器が2000年ユーロピアノ・コングレス(イタリア)に招待され、コンサート・展示が行われた。それに引き続きオーストリア・ウィーン芸術史博物館において2ケ月間一般公開され、コンサートも行われて話題となった。ザ・フェニックスホールでは、2003年から2005年にかけてのレクチャーコンサートシリーズ、「ピアノはいつピアノになったか」公演で数多くのフォルテピアノを提供した。


2012年12月8日(土)16:00開演。榎田雅祥、上野真の出演でバッハ「フルートソナタ ニ長調 BWV1028」、テルシャック「ソナタ 第3番 作品175」、ベーム「グランドポロネーズ 作品16a」ほか。公演に先立つ15:20から、榎田氏によるプレトークも。入場料3,000円(指定席)学生券1,000円(限定数。ザ・フェニックスホールチケットセンターのみのお取り扱い)。

チケットのお申し込みはザ・フェニックスホールチケットセンター 
TEL 06-6363-7999(土・日・祝日を除く平日の10時~17時)