Prime Interview パーカッション・パフォーマンス 「ビートジャック」

掲載日:2023年7月13日

あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールで行われている現代音楽シリーズが好調だ。特にミニマル・ミュージックを中心に採り上げ始めた2021年度あたりから注目を集め、昨年にはフィリップ・グラスの『浜辺のアインシュタイン』で文化庁芸術祭 大賞を 受賞。高い評価に輝いた。このシリーズに今年登場するのが、関西を拠点に19年の活動歴を持つパーカッション・グループ、ビートジャックの面々。池田安友子、内山光知子、高鍋歩、安永早絵子の4人である。オリジナル作品を中心に、打楽器の魅力を楽しく心を込めて届けてきた実力派が今回取り組むのはミニマルの祖、スティーヴ・ライヒから、その最前線ともいうべきアンディ・アキホの作品まで。ビートジャックはこれらの音楽にどう立ち向かうのか?インタビューは期待とやる気のハラハラドキドキと、彼らの持ち味であるふんわりほっこりが交錯するとても楽しい時間となった。ビートジャック流ミニマル祭りはもう始まっているのだ。
(逢坂聖也 音楽ライター)

 

 

ドキドキハラハラわくわくが止まらない ビートジャック流ミニマル祭りへようこそ!

 

 

 

――今回はミニマル・ミュージックを中心としたプログラムです。がっちり譜面に書かれた作品を演奏する、しかもアンディ・アキホみたいな最前線の音楽もある。この演奏をザ・フェニックスホールから依頼された時はどんな感じでした?

 

安永:やばいなと思いました。やばいなって思ったけど、めっちゃやりたいと思いました。いろんなタイプの演奏があると思うんですけど、この4人でライヒとかアンディ・アキホをやると、今まで自分も知らなかったことがたくさん学べたり発見があるんじゃないかなと思うんです。だからミニマルっていう既成概念を1回取っ払って、ビートジャックの楽しさで演奏できたらいいなっていう思いがあります。

 

高鍋:ミニマルで奏者に一番に要求されるのが集中力だと思うんです。お客さまは聴いていて同じことの繰り返しが、だんだんずれて行ったり戻ったりしていくのを楽しむことができるんですが、奏者は段取りがあるのでそれを頭の中で繰りながらやらなきゃいけない。今回はいつもと違ってほとんど既存の曲を1から演奏するので、この小さい脳みそが大丈夫なんだろうかっていう気がちょっとしています。

 

内山:昔、カナダのネクサスっていうパーカッショングループの来日公演で、ライヒの『木片』(※)を聴いて衝撃を受けたことがあるんです。自分でも大学時代に演奏したことはあるんですが、その時はただ淡々としか演奏できなかったのにネクサスのメンバーは笑顔を振りまいてノリノリで演奏してたんですよ。いつか私もあんな風に『木片』を演奏したいっていう希望がずっと心の中にあったので、今回それが叶うんじゃないかと思ってわくわくしています。

 

池田:ミニマル・ミュージックの、聴いてる人が息を忘れる様なハラハラする感じも魅力だと思うんですが、それだけじゃなくて、私たちはお客さまにバリ島のケチャみたいなトランスというか、自分の中の眠ってる何かを呼び起こすみたいな感じで聴いてもらって、自分がまるでお祭りにでも来たんとちゃうか、くらいの気持ちになってもらえたらうれしいです。私たちも本番でそこまでいけたらいいなと思うし、この4人はそれができるメンバーだし。

 

――それぞれの意気込みがすごくいい感じです。一方でここはクリアしなければ、とか、これはちょっと大変だぞ、みたいな部分はありますか?

 

内山:ビートジャックの公演っていつも暗譜なんですね。作曲したメンバーや自分たちの想いを伝えたいので、暗譜して曲を把握した上で演奏するのが基本なんです。でもライヒとかにそんな挑み方で大丈夫かなっていうドキドキ感もあって…彼らの音楽を、人に何かを伝えられるくらいに把握しないといけないっていう大変さにどこかで行きあたると思うと、プレッシャーで押しつぶされそうな感じはあります。

 

高鍋:アンディ・アキホの作品に鉄柱20個でピアノみたいに音階を作れっていう曲があるんです。つまり彼の音楽は楽器を作るところからスタートするんですね。それで私は今、鉄工所に通ったりしているんですが、そういう大変さがあると言えばありますね。

 

――そういった “楽器ではない楽器”を、今回どのくらい用意しないといけないんですか?

 

高鍋:まずその鉄柱。それから空き瓶とか、鉄のヤカンとか。あとシガーケースですね。葉巻入れ。そういうのが珍しいと思います。シガーケースは私も持ってないんで、メルカリで注文してるところです。

 

――ではそんな大変なところも本番で大いに注目したいと思います。そしてライヒとアキホのあいだに置かれたのが、『アイマイ』と『バンリマン・ラムガ』という2曲のビートジャックのオリジナル。これらはどんな曲ですか?

 

池田:『アイマイ』は私の作品で、A4用紙1枚の楽譜があります。打楽器って人とリズムを「合わせる」のが気持ち良かったりするんですが、「合わない」ということも表現したいと思って作りました。合わないまま4人のカホンが、それぞれの意志を持って同時進行していく感じ。それがミニマルになって、最後に「合う」という作品です。「楽譜はあるけど即興性もある」ということが今回のテーマに沿うような気がしてプログラムに入れました。

 

安永:『バンリマン・ラムガ』は、私がもともとガムランが好きというのもあって、ガムランの浮遊感や心地よさをマリンバ1台、4人の連弾で表現できないかなと思って作った曲です。前半は『まじない』で後半が『踊り』。動画、観ていただけました?あんなにくるくる回る予定はなかったんですけど、みんなフラフラしながら練習を重ねてあの形になりました。今回もあの形でいけるかな。みんな三半規管大丈夫か?

 

――遊びごころが満載のビートジャック流ミニマル。今からコンサートが楽しみです。

 

安永:最初に高鍋くんが言っていたように、やる方は大変、聴く方は幸せみたいなところがあるんですけど、やる方も幸せっていう気分でやりたいなっていうのもありますね。1音1句、絶対もれなく忠実に演奏しなきゃいけないので、自分の中に「俺がんばれ!、俺ちゃんとやるぞっ!」ていうのを今から少しずつ積み上げていかないといけないっていうドキドキハラハラわくわくな感じです。

 

高鍋:打楽器は音色の数がとても多くて、メンバーのバチの選び方1つでそれぞれの音が変わって来ます。だからとりあえず音を並べることはできても、それをチームの音楽として届けるっていうことは、やってみないとわからない所がかなりあるんです。どんな音楽になるんだろうって、ドキドキしながら今、楽譜を読んでいるところです。

 

内山:初めての合わせの日が決まったらみんなそれに向けて楽譜を読み込んでくると思うんですけど、それでも合わせればきっとビートジャックの味みたいなものが染み出してくるんじゃないかなって気がするんですね。だから楽譜通りなんだけど楽譜通りじゃないみたいな、そんな面白さが出てくるんじゃないかなと思っています。

 

池田:私はこの4人で…特にオリジナルじゃない曲を合わせた時に感じるんですが…どんな曲をやってもビートジャックっていうスタイルがあるんだって気づかされてうれしくなることがあるんです。普段はオリジナルが多いので気づきにくいんだけど、今回のこの挑戦で、それを確信できるんじゃないかっていう期待がすごくあります。めちゃくちゃ大変なのは棚に上げまくって、今はそんな風に思ってます。お楽しみにっ!

 

「木片」(※):Music for Pieces of Wood 今回1曲目の演奏曲。