Prime Interview 高野百合絵(Sop)さん、黒田祐貴(Br)さん

オペラ界の次世代スター、ザ・フェニックスホールに登場

掲載日:2022年9月9日

昨年の佐渡裕プロデュースオペラ『メリー・ウィドウ』で絶大な人気を博したハンナとダニロが、あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールに登場する。モデル並みのビジュアルとスタイルに加え、抜群の歌唱力で聴く者・観る者を魅了する高野百合絵と黒田祐貴の二人は、単独での意欲的な活動に加え、デュオの活動も積極的に続けている。12月に行われるザ・フェニックスホールの人気シリーズ、ティータイムコンサートでは、レナード・バーンスタイン晩年の秘曲『アリアと舟歌』の関西初演に加え、二人が今いちばん歌いたいバラエティに富んだプログラムを披露してくれる。人気と実力を併せ持ち、将来のオペラ界を背負って立つであろう二人に、お互いの印象や、『アリアと舟歌』に纏わるエピソード、ティータイムコンサートの聴き所などを聞いた。
(取材・文:磯島浩彰/音楽ライター)

 

 

バーンスタイン晩年の秘曲「アリアと舟歌」
待望の関西初演

 

 

 

――お二人のデュオの活動は、昨年の『メリー・ウィドウ』(2021.7 兵庫県立芸術文化センター)が評判になったことから誕生したものだと思っていたのですが、違ったのですね。 

 

 

黒田 高野さんも私も、日本コロムビアの「Opus One」というレーベルからCDをリリースしています。高野さんは私より1年ほど前にリリースされているのですが、二人共CD発売記念リサイタルがコロナの影響で開催出来なかったので、二人で一緒にやる事になったのです。

 

高野 それが『メリー・ウィドウ』終わりの昨年9月、東京の王子ホールでのリサイタルです。最初の顔合わせでプログラムを決めている時には、まだ『メリー・ウィドウ』に出演する話は決まっていませんでした。その後、私がハンナ・グラヴァリ役に決まったという知らせを受けて喜んでいると、相手役が黒田さんだと知り、びっくりしました。

 

黒田 めちゃくちゃ驚きました。高野さんは何事にも貪欲で、探求心がすごい。常にどうしたら良くなるかを考えている尊敬できる音楽家です。

 

高野 2019年に初めて黒田さんの舞台姿を拝見した時から、素敵な歌声と輝くオーラ、そしてユーモアを持ち合わせた本物の舞台人だと思いました。歳は一つ違いという事ですが、色々な引出しをお持ちで、大変勉強させてもらっています。

 

 

――『メリー・ウィドウ』は大盛況で、お二人のハンナとダニロも評判を呼びました。それを受けて、今年の1月には兵庫県立芸術文化センター大ホールでデュオリサイタルが行われましたが、ハンナとダニロの凱旋公演といった内容でした。

 

黒田 名曲をこれでもか!と並べたプログラムでしたね。今回のコンサートでは、また違った面をお見せしたいと思っています。

 

 

――王子ホールで演奏されて話題となったレナード・バーンスタインの『アリアと舟歌』を、今回も選曲されました。この曲を最初に取り上げられたのはどういう経緯だったのでしょうか。

 

高野 私は珍しい曲を探し出すのが好きで、『アリアと舟歌』はいつか歌いたいと大切に温めていた曲。黒田さんなら一緒に歌ってくださるのではないかと思い提案したところ、「やってみよう!」と即答してくださいました。

 

黒田 全く知らない曲でした。その場でちょっとだけ音源を聴いてペラペラと楽譜をめくって、面白そう、やってみよう!と(笑)。正式な記録は分かりませんが、ネットで調べても日本での演奏記録は無く、僕たちが初演するのも素敵だなと思ったのです。

 

 

――女声と男声、ピアノ伴奏が二人というユニークな構成の曲ですね。

 

高野 アメリカの家庭がテーマとなった、全部で8曲の連作歌曲集です。二人で歌う曲とソロの曲が交互に出てきます。第2曲の歌詞に、この曲自体を歌った、「このメロディ、不思議だわ。ミニマルミュージック、クラシック、それともポピュラーソング?」「どれも不正解」というくだりが出て来ますが、まさにジャンルを特定できないミステリアスな曲です。

 

黒田 歌詞は英語ですが、第6曲だけがイディッシュ語で書かれています。バーンスタインが敢えて、イディッシュ語の詩をテキストに選んだのは、彼のお父さんがウクライナ系ユダヤ人だったことと関係があると言われています。この曲を歌うために、イディッシュ語の先生に就いて発音の勉強をしました。王子ホールでは、歌詞対訳を事前に配ったのですが、今回は、よりダイレクトに作品の世界観を味わって頂くために、字幕が出せないかお願いをしています。

 

 

――コンサートの内容を教えてください。

 

高野 前半はコルンゴルトとクルト・ヴァイルの作品を歌います。共に同じ時代に活躍し、主に映画やミュージカルの世界で成功を収めている作曲家です。コルンゴルトの歌劇『死の都』は日本でも上演される人気オペラなので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。クルト・ヴァイルは昨年歌って完全にハマリました。『ヴィーナスの接吻』はミュージカル作品ですが大好きな曲です。そしてこれも大好きな曲、平井康三郎『うぬぼれ鏡』を初披露します。

 

黒田 高野さんがコルンゴルトを選曲されたので、同じ『死の都』からCDにも入れた“ピエロの歌”ともう1曲をまず決めました。そして大好きなマーラーの『若き日の歌』から2曲。彼女と同様に私も邦人作品の中から、『さっちゃん』の作詞、作曲のお二人、大中恩、阪田寛夫の作品から『ところがトッコちゃん』という曲を歌います。作詞の阪田寛夫さんは大阪出身で、宝塚歌劇団の元花組トップスター大浦みずきさんのお父様です。

 

 

――前半の最後に、バーンスタインの『ウエスト・サイド・ストーリー』が選曲されています。

 

高野 同じバーンスタインでも『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957年作)は若い二人の物語に対して、『アリアと舟歌』(1988年作)は結婚して子供が生まれた家族の物語です。作曲時期の違いでこれだけ作風が違うという所を聴いて頂こうと思い、選びました。

 

 

――会場となる大阪のザ・フェニックスホールはご存知ですか。

 

黒田 大阪は母親の出身地ですし、阪神タイガースファンには特別な場所です(笑)。ザ・フェニックスホールは、福井敬さんのリサイタルに父親(バリトン黒田博)がゲストで出演した時に何度か伺っています。お客様に囲まれた独特の空間で、音響がとても良かった印象が有ります。

 

高野 大阪で歌うのは初めてなので、とても楽しみです。ネットでステージ後ろの壁が上がり、外景が見えることを知りました。14時からのリサイタルなので、夜景は無理だと思いますが、上手く演出として活用できないか色々考えています。

 

 

――最後にメッセージをお願いします。

 

高野 ジャンルやカテゴリにこだわらず、チャレンジすることが好きです。職業はと聞かれれば、高野百合絵です!と答えられるような、唯一無二の存在になれるよう、今はしっかり勉強中です(笑)。どうか私たちのリサイタルにお越しください。

 

黒田 私も自分の職業は、声楽家というより芸術家と言えるようになりたいと思っています。この後も、リサイタルや佐渡さん指揮の新日本フィル『第九』など、二人で出演する機会はありますが、ソロでもデュオでも、皆さまの期待にお応えできるように努力して参ります。ぜひザ・フェニックスホールにお越しください。お待ちしています。