Prime Interview ワルター・アウアーさん

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団フルート首席奏者

掲載日:2022年1月7日

ワルター・アウアーさんは、世界最高峰のオーケストラの首席フルート奏者として、またソロ奏者として世界各地で演奏活動を行う傍ら、ウィーン国立音楽大学の教授をはじめ世界各地でマスタークラスの講師を務めるなど後進の指導にも熱心に当たっています。アウアーさんの人柄と指導法に惹かれて多くの演奏家が彼のもとに集っています。日本でも教鞭を執り、コンサート活動も含めて何度も来日していることからもわかる通り、アウアーさん自身も大変な親日家です。アウアーさんの演奏は非常に堅実で楽譜に忠実であるというイメージがあるのですが、そこにウィーン・フィルならではの上品さが加味されているように思います。この1、2年はコロナウイルスの影響で、大変な状況が続いていましたが、新しいことにも挑戦し、困難を乗り越えポジティブに過ごされていたようです。昨年のウィーン・フィル来日のことや、今回のコンサートについてお話を伺いました。
(取材・文:宮地泰史/あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)
(取材協力:今西慎吾/株式会社プロ アルテ ムジケ)

 

 

ウィーン・フィルの特別なサウンドを
私はとても愛しています。

 

 

 

――2003年からウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者として活躍されていますが、アウアーさんにとってウィーン・フィルならではの素晴らしさとは何ですか。

 

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団には多くの歴史があります。このような一流の音楽集団の一員として人生を送れることはまさに私にとって至福の特権です。ウィーン・フィルのメンバーはこの伝統の素晴らしさを多くの人に伝え、後世へと継承することに挑戦しています。また、ウィーン国立歌劇場のオーケストラとしても活動しているため、他のどのオーケストラよりもメンバー同士お互いの演奏に耳を傾け、音楽づくりに必要なコミュニケーション能力を高め続けているところだと思います。そしてオーケストラの伝統に生きづく「特別なサウンド」に貢献することです。そのサウンドは、とてもカラフルで、深く、暖かいもので、私はウィーン・フィルをとても愛しています。

 

――反対にウィーン・フィルならではの大変なことはありますか。

 そうですね、、、(笑)オーケストラのコンサートと歌劇場でのオペラの仕事、ツアー、多くのリハーサル、その合間に大学で教えることもしているのであまり家族との時間がとれないという点でしょうか。ですが、素晴らしい音楽体験を常にしているので大変とか苦しいと思ったことは一度もありません。

 

――オーケストラで演奏する事と、ソロで演奏する事とでは、アウアーさんの中でどのような意識の違いがありますか。

 

 ソロでもオーケストラでも意識や演奏に違いは全くありません!常に作曲家の遺した楽譜、オーケストラであれば指揮者のアイデアに忠実に向き合い、理想の音や音楽を追求して演奏することに力を注いでいます。その音や音楽が聴衆の皆さんに届き、客席と舞台とで時間を共有することができます。それはソロでもオーケストラでの演奏でも私にとっては全く同じことです。
 

――アウアーさんにとって、フルートという楽器の魅力を教えてください。

 

  私は6歳からリコーダーを習い、先生の勧めで11歳でフルートを始めました。フルートの魅力はまさに「歌」が歌える楽器であることだと思います。そして様々なキャラクターの響きや音色を出すことも出来ます。とても機動性の高い楽器だというところが魅力だと思いますね。

 

――コロナウイルス感染症の影響は大変ですが、この1年どのようにして過ごされましたか。

 

 新型コロナウイルス感染症の世界的な危機的状況は、前例のない壊滅的なものであり、特にクラシック音楽の世界にとって大きな損害を与えています。昨年ウィーン国立歌劇場が閉鎖されたとき、状況がいかに深刻であるかを個人的に実感しました。これまでの長い歴史の中で歌劇場は決して閉鎖されませんでした! しかし、2020年秋の数週間を除いて、1年間閉鎖されたのです。
 幸運なことに私は2021年の初めにウィーン国立音楽大学でフルート科の教授になりました。それは間違いなく私にとって素晴らしい挑戦でした。
 あとは、自宅で多くの時間を過ごしていたので料理をたくさんしました!今や、牡蠣を開けることができます(笑)。家族と一緒に過ごす時間は素敵な経験でした。私は妻と3人の子供と一緒に、これほど多くの時間を過ごし、これほど多くの食事を共にしたことはありませんでした。

 

――今回のプログラムについて意識されたことを教えてください。

 

 今回演奏するプログラムは、自分が心から愛している曲を演奏したいと考えて選曲しました。すべての作品は太陽の光に照らされ、喜びに満ち溢れています。いまの困難な時代に聴くことで、精神を高められる作品たちだと思います。

 

――今回の来日で滞在中に楽しみにしていることはありますか?

 

 今日本は私の第2の故郷です!空港に着くと「家に帰ってきた!」と感じます。(入国審査の後ですが・・・笑)。新型コロナウイルスの制限により、2021年11月のウィーン・フィル来日時にはホテルとコンサートホールの行き来しか許されませんでした。その時、残念ながら会うことの出来なかった多くの友人に会うことと、そして和食を楽しみにしています。私は和食が大好きです。これほど素晴らしい食べ物は他の国にはないでしょう!!とてもシンプルですが、驚くほどに味わい深いラーメンから高級な料亭の食事までバラエティに富んでいますね。
 卵かけごはんで一日をスタートすることができたら、これほど素晴らしい一日はありません!!

 

――来場される方にメッセージをお願いします。

 

 今回の新型コロナウイルスが私たちに何かを教えてくれたとしたら、それは私たちが一緒にこの困難な時代を乗り越えることができるということだけです。新型コロナウイルスは、私たちが顔を合わせ時間を共有する必要性や意義を再確認させ、それによって喜べることがいかに重要かを教えてくれました。それは、客席と舞台とで私たちが音楽を通して体験することと同じことです。
 ヨーゼフ・ハイドンは言いました「音楽は世界中で話され、世界中で理解されている唯一の言語である」と。2022年3月に私の同僚である素晴らしいハープ奏者のアンネレーン・レナエルツとともに、ザ・フェニックスホールで皆様にお会い出来ることを心待ちにしています!