Phoenix Spot いちおし公演情報 「無伴奏ヴィオラリサイタル」に寄せて ウェンティン・カン

1月29日(金)ティータイムコンサートで
初登場となる中国人ヴィオラ奏者、ウェンティン・カン

掲載日:2015年12月7日

1月29日(金)ティータイムコンサートで初登場となる中国人ヴィオラ奏者、ウェンティン・カンさんより「無伴奏ヴィオラリサイタル」に向けてメッセージを寄せて頂きました。(翻訳:株式会社テレビマンユニオン)

編曲の創意  魅する物語へ
「無伴奏ヴィオラリサイタル」に寄せて    ウェンティン・カン

 

 

 

近年、ソロ楽器としての演奏がよく聴かれるようになったヴィオラ。その特別な声を持つ楽器の演奏に対する奏者の責任は重大です。このたび、すばらしいヴィオラ奏者であり、私の尊敬する師である、今井信子氏の監修するコンサートシリーズで演奏させていただくことを心より光栄なことと感謝しています。
私が今井先生にお会いしたのは、2012年の第2回東京国際ヴィオラコンクールでした。この東京国際ヴィオラコンクールは、今井先生の提唱で24年前に発足して以来、毎年開催されているヴィオラの祭典「ヴィオラスペース」から生まれたコンクールです。コンクール優勝の副賞として、次年以降のヴィオラスペースへの出演が叶い、参加させていただいていますが、毎回、音楽を創り上げていく中で新しい発見に出会い、それはとても美しい音楽のひらめきの時となっています。また、大阪はヴィオラスペースの開催地としてとても重要な都市のひとつです。
2012年以降、今井先生とはさまざまな場所でお会いし、また、室内楽で共演をさせていただいています。2013年~2015年にかけてはクロンベルク・アカデミーで、先生に師事していました。私にとって今井先生は、ヴィオラの音楽や演奏法だけではなく、より豊かで偉大な人間になるための人生の師でもあります。それはそれは、さまざまなことについて、数え切れないほどの質問や疑問を先生に相談しました。そのたびに先生は、とても丁寧に、その場限りではなく、とても長い目で将来を見据えた答えで、私を勇気づけてくれています。今井先生には周りにいる人すべてに前向きで真摯な力を与える力があります。このたび、スペインのマドリッドで先生のアシスタントを務めることになりましたが、ご一緒できることを今からとても楽しみにしています。
今回のリサイタルでは、“めずらしい編曲からのインスピレーション”をテーマに選びました。このプログラムでヴィオラはさまざまな角度から、違った音色で奏でる“物語”を表現しています。
ゲオルク・フィリップ・テレマンはJ・S・バッハと同じ時代に生きた、ドイツの作曲家です。テレマンは12曲のファンタジーをヴァイオリンの独奏曲として作曲しました。その中から、今回私は、第5番ニ長調、第1番変ホ長調、第7番変イ長調を選びました。第5番は暖かさと大胆な若さの力に満ち溢れていますが、曲の半ば、アンダンテの箇所ではわずかな静寂が訪れます。第1番はゆったりとしたラルゴで始まり、グラーヴェで重々しく奏でられる平行短調の中間部のアレグロに移ります。その後、変ロ長調の明るいエンディングで第1番は終結します。今度は、デザートのような甘くて優しい第7番が慰めに満ちた変ホ長調で始まります。この曲は緩急のコントラストが鮮明な4楽章から成っています。
テレマンのファンタジーで幕を開けた後は、ヨハン・セバスチャン・バッハの6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタより、ソナタ第1番とパルティータ第1番の2曲が続きます。同じバッハの無伴奏チェロ組曲はヴィオラでよく演奏される曲ですが、今回のヴァイオリン無伴奏ソナタとパルティータはかなりの難曲で、これを演奏するのはひとつの挑戦です。ですが、同時にバッハの音楽の別の側面をみせてくれるこの2曲を選び、今回の演奏会で演奏することは非常に価値のあることだと信じています。ソナタ第1番ハ短調はアダージョ、フーガ、シチリアーナ、プレストで演奏されます。アダージョは即興的なメロディ・ラインが非常に創造的で色調豊かな和音進行の中に築かれています。フーガではバッハが優れた音楽の建築家であったことが証明されています。限りない可能性を持ったハーモニーがその楽章に限りない深みと高さをもたらします。イタリアの伝統的なダンス、シチリアーナは曲の中でも、穏やかな楽章です。その後に続く軽快ながらも情熱的なプレストはヴィルトゥオーゾの響きをもって、曲を終わりに持っていきます。
パルティータの第1番は、ヨーロッパの伝統的な舞曲から構成されています。すべての舞曲にそれぞれのバリエーションの特徴に沿った“ドゥーブル(変奏)”が用いられています。この変奏は舞曲の正確な和音進行に従って進められますが、リズムは様々に変化します。パルティータはすべて独自のスタイルで構成されるものですが、なかでもこの第1番はドゥーブルを用いた唯一の作品です。
イギリスの作曲家、ベンジャミン・ブリテンは3つの無伴奏チェロ組曲をムスティスラフ・ロストロポーヴィチの為に書いています。第1番作品72は9つの楽章から成り、2楽章ごと、4箇所に“カント(歌)”が挿入されています。“カント”ではブリテンは弦楽器の特性を生かした、ピッツィカートやコルレーニョ(弓の木部で弦をたたく奏法)などさまざまな効果を入れています。この音楽的な効果によって、曲はより色彩を帯び、創造性を伴った、とても興味深いものになっています。これはブリテンの作曲する弦楽曲の優れた特徴といえます。この曲を編曲し、ブリテンの新たな声を発見させてくださった今井先生に感謝します。
ヴィオラという楽器の魅力を存分に楽しんでいただけるプログラムになりました。会場で皆様にお会いできますことをとても楽しみにしています。