Prime Interview プライムインタビュー

丁々発止のアンサンブル「フルート・ライブ・セッション with The Best Friends」

掲載日:2013年11月19日

精鋭集団の快演が大反響に

 

日本を代表する名手である工藤重典が、フルートの持つ魅力を掘り下げてゆこうとザ・フェニックスホールで展開している「フルート・ライブ・セッション」シリーズ。次回は、工藤の提唱により、わが国屈指の精鋭たちで組織された木管五重奏団「クドウ・シゲノリ・ウインド・アンサンブル」が登場する。今年1月に発表したアルバムは、音楽ファンの間で大評判に。関西での初ライブを前に、工藤とクラリネットの赤坂達三、オーボエの古部賢一に話を聴いた。

(取材・文:寺西 肇/音楽ジャーナリスト))

 

     — デビュー・アルバムは、木管五重奏の面白さを知らしめる「衝撃波」となった感も…。その反響を肌で感じます
     か。

工藤 特に「衝撃波」と呼べる反応とは、正直、自分では思いません。ただ、このCDを出してから木管五重奏によるコンサートの依頼が、急に増えたことは事実ですね。
古部 僕が顔なじみの楽器店では、入荷すると即、売り切れですよ。聴いて下さった方々からは、ありがたい御感想もたくさん頂いています。
赤坂 私も沢山の方々から、感想や質問を…。私自身の事は分かりませんが(笑)、これだけ話題になるのは、工藤さんをはじめ、メンバーが凄いのだなと改めて思いますね。

      —今回までにも、何度かステージは行われていますね。

工藤 ええ。横浜や岐阜で公演を行い、とても良い反応がありました。
古部 とても熱い反応でしたね。
赤坂 かなり遠方からの方もいらっしゃったようで、ステージからしばらく経っても、印象に残して下さっている方が多いのが、何よりうれしいですね。

      —工藤先生が中心となり、精力的に取り組むにあたっては、何かきっかけが?

工藤 私自身は以前、カール・ライスターさんや宮本文昭さん(*1)たちと木管五重奏を組んでいた経験があります。ただ、各自の活動が忙しくて、定期的に続けることは至難の業だった(苦笑)。しばらくご無沙汰していた、この分野に再び光を当ててみたいと思い立ったのが、今回の動機ですね。

      —達人揃いのメンバーでアンサンブルを始めるにあたり、特に難しい問題は?

工藤 もともとサイトウ・キネン・オーケストラや水戸室内管弦楽団で一緒に共演していた仲間ですから、さほど困難はありませんでした。むしろ、皆さんが素晴らしい演奏家なので、集まった瞬間から、自然に演奏に入ることが出来ましたね。
古部 “バンマス”の工藤さんが、華やかにリーダーシップを取って纏めて下さってはいますが、決してワンマンではなく、全員が丁々発止とアンサンブルを繰り広げている感じですね。例えば、工藤さんとはサイトウ・キネンで知り合って20年、吉田さんとも色々なアンサンブルでご一緒し、同じくらいのお付き合い。それに、赤坂、日橋両氏とも以前から共演を重ねていますが、このアンサンブルではお互いに、他でご一緒するのとはまた違った音楽性が、自然に出て来ていると思います。

      —ソロ演奏の際にフィードバックする場面は、ありますか。

古部 もちろん、色々と! この刺激的なアンサンブル自体が、素晴らしい経験なので…。
赤坂 ユニークで“不偏で普遍”なアンサンブルに参加できて、本当に嬉しいですね。そして、特にモデラシオン(中庸)と申しますか…ソロ演奏などの場面で、「これでもか!」みたいな押しつけがましい表現はよくない。そんな確認を、アンサンブルの中でできることが、最も自分の理念にフィードバックする部分だと思います。

      —アンサンブルでは、ホルンの日橋達朗さんの若さが際立っていますね。

工藤 実は当初、ホルンもあるベテランの方に依頼したのですが、スケジュールが合わなかったんです。そこで、日本音楽コンクールで優勝したばかりの日橋君に、思いきってアタックしてみました。そしたら何と、これらの難しいレパートリーを「すべて学生時代に演奏した経験が  ある」と言うので、「それじゃ是非、やってもらおう」となりました。これが結果的に、最初のステージの大成功につながった訳です。
赤坂 彼の存在は、とても重要な要素です。特に木管五重奏では、時にホルンが超絶技巧を強いられ、華やかな響きを全体へもたらす役割を担っています。まさしく、彼の若さと才能は際立っていて、各界で話題になっていますね。頼もしい限りです。
古部 まさに新世代の名手ですね! 彼の若い息吹に、我々“オジサン”もとても刺激を受けていますよ(笑)。それと同時に、我々の年季や経験が、彼にとって刺激になればいいなと思いつつ、必死に頑張っています(笑)。年齢でいえば、工藤さんは僕の20ほど上、赤坂さんと吉田さんは僕の少し上、日橋さんは僕の20歳弱下ということで、中間の僕としては、ちょうどサッカーのミッドフィルダーの役割かも(笑)。 

 

「ライブ・セッション」で変化

—今回のステージは「フルート・ライブ・セッション」の一環。フルートの魅力を多角的に掘り下げてきたシリーズに、あえて木管五重奏のステージを置いた意図は?。

工藤 「フルートには、こんなにも楽しい世界が広がっていると知って、できれば聴いた人が『自分も演奏したい』と思ってほしい」と続けてきたシリーズ。そうして、これまでフルート中心のアンサンブルを随分やったので、今回は同じ管楽器のアンサンブルに目をつけた(笑)という感覚でしょうか。

—これまでのシリーズを通じて、フルートを取り巻く環境は変化しましたか。
工藤 フルート・ライブは、東京の白寿ホールで6年前に第1回を始めた訳ですが、実はそれよりもっと前、渋谷にあったアングラ劇場「ジァンジァン」で始めたシリーズが最初(*2)。ザ・フェニックスホールでのシリーズも始まって、取り巻く状況は変化してきたと、実感しています。各地にフルートのアンサンブルが増えてきたし、今やフルート・アンサンブルを対象としたコンクールも、あるほどですから。
赤坂 私はクラリネット奏者ですが、白状すると(笑)、実はフルートが大好き。留学中はランパル(*3)のコンサートや公開レッスンを聴きに行くなど、その魅力の虜となっていました。だから、何かクラリネットでフルートの役に立つきっかけを探していたのかも知れない。その点で、今回の木管五重奏は、とてもいいチャンスでした。そして、私にとって、ランパルに一番近い人物こそ、他ならぬ工藤先生なんです。繊細で器の大きなお人柄と、音楽家として、そして人間としての素晴らしさ。さすが“重典”さんだけに(笑)、その一言一言、そして一音一音は大変重みがある。だからこそ、ステージで一緒に演奏しているメンバーも聴衆も、皆がハッピーになれるんだと思いますね。 

 

話題呼ぶ関西初ステージ

—今回のプログラムは、CDの収録曲が軸。シリアスなモーツァルトに、パリの洒落っ気の粋のフランセ、やはりパリのエスプリのようなプーランク、アンコールのように置かれたドビュッシーと、コントラストの妙が面白い。

古部 フランス作品については、吉田さんと僕が“ドイツ人”なのに対して、そこはもう何と言っても、工藤さんと赤坂さんが“パリジャン”ですから(笑)、お二方の華やかなエスプリを堪能させて頂いております(笑)。
赤坂 民族音楽やジャズ、あらゆるジャンルで使用されてはいますが、クラリネットの歴史は主にモーツァルトをスタートに、フランスをはじめとして、近現代の時代に更なる発展を遂げました。フランスで学んだ自分のルーツと重ねてみても、このプログラムは違和感がないんですね。だから、これらの作品や作曲家の時代背景、様式感を乱す事なく、伝統に則って、自然に演奏する事が重要だと考えています。。

 

—モーツァルトの五重奏曲ですが…「8管楽器のためのナハトムジーク」から作曲者自身が弦楽五重奏曲へ、さらに現代のロットラー(*4)が木管五重奏曲へ編曲したという特異な出自が面白い。木管五重奏のためのオリジナルの古典作品もある中、この作品を選んだのは、どんな意図が?。
工藤 フルートをはじめ木管楽器に特有の音色を聴いてもらいたい一方、いわゆる「大作曲家」の作品を演奏したいという気持ちも、強くあるからです。

 

      —この作品で、原曲を意識されたりすることは。

赤坂 実は弦楽五重奏版が、常に頭の中で鳴っています。私は場面によって、チェロやヴィオラ、セカンド・ヴァイオリンのセクションを受け持つので、弦楽器での表現を意識しつつ、クラリネットの魅力を更に引き出せれば…と取り組んでいます。聴いて下さる方々に、それがどう感じられているかは、実に興味深いところですね。
古部 元々の原曲である木管八重奏版では、オーボエがとても活躍しますが、この木管バージョンでは色々な楽器が活躍する様にアレンジされています。このため、オーボエはメロディー以外の色々な役割をしなくてはいけませんが、そこがアンサンブル大好きな僕としては、腕の見せどころかな(笑)と思っています。

 

      —今回のステージで、特に「ここを聴いてほしい」というアピール・ポイントは? そして、今後の活動については?

赤坂 まずは、フルートとオーボエの、息の合った絶妙なコンビネーションと美しく豊かな音色と表現力を。そして、アンサンブル全体を包み込むホルンの豊かな響きと超絶技巧、内声を受け持つクラリネットと、低音域から美しく歌い上げるファゴット!何より、フルートのソロ!…を味わっていただければ。
古部 ザ・フェニックスホールの大きさも、このアンサンブルにはちょうど良いし、臨場感溢れる丁々発止をお楽しみ頂ければ、うれしい。何と言っても、まだデビューしたての赤ん坊ですから(笑)…今後はまず、レパートリーとコンサートを増やす事から始めないと(笑)。それによって、より幅広く、奥深いアンサンブルに成長してゆければ…。
工藤 何よりも、ファンの方たちがどんなものを聴きたがっているかを、知る必要があると思いますね。そのご要望に、柔軟に応えてゆきたいと考えています。

*1 カール・ライスター(1937~)はドイツの名クラリネット奏者。ベルリン・フィル首席などを歴任、サイトウ・キネン・オーケストラにも参加している。宮本文昭(1947~)は、わが国を代表する名オーボエ奏者。ケルン放送響首席を務めるなど国際的に活躍したが、2007年に引退し、現在は指揮者として活躍している。
*2 「渋谷ジァンジァン」は1969年に開設された、最大200人収容のパフォーマンス空間。アングラ文化の発信基地として、先鋭的な芸術活動が繰り広げられた。工藤は「フルートを吹く人は多いが、どうしても閉じた世界。一般の人たちにこそ、聴いてほしい」と考え、ここを舞台として、クラシックにとどまらず、ジャズやポップスにまで踏み込んだパフォーマンスを継続的に展開。お行儀の良い“音楽会”をぶち壊した感覚が「フルートを生で聴いた経験はないが、興味はある」という人々の共感を得て、大きな反響を得た。2000年の「ジァンジァン」閉館の7年後、「フルート・ライブ・セッション」として同じ渋谷の白寿ホールで復活。ザ・フェニックスホールでのシリーズは、2010年にスタートした。
*3 ジャン=ピエール・ランパル(1922~2000)は、演奏史に大きな足跡を遺したフランスの名フルーティスト。
*4 ウェルナー・ロットラー(1939~2012)は、ドイツの現代作曲家。この編曲自体は、原曲を尊重した保守的な仕上がりとなっている。