マンデルリング・クァルテット インタビュー
掲載日:2008年7月11日
「現代ドイツ最右翼」の呼び名が高い弦楽四重奏団「マンデルリング・クァルテット」が9月10日(水)夜、ザ・フェニックスホールで関西デビューを果たします。ドイツ・ワイン街道沿いの町ハンバッハで生まれ育った3人のシュミット兄妹を核とし、数々の国際コンクールを制する実力派。今年は創設25年の節目。芳醇なワインを思わせる、かぐわしい音色と精緻を極めたアンサンブルにご期待ください。舞台は「御堂筋にあふれる音楽」を目指し、大阪フィルハーモニー交響楽団音楽監督・大植英次氏の提唱で毎秋、開催されている音楽祭「大阪クラシック」(大阪市と同楽団などでつくる実行委員会主催)参加公演。大阪フィルのトップ・クラリネット奏者ブルックス・トーン氏とのモーツァルトの五重奏共演も注目です。チェロのベルンハルト・シュミット氏が来阪し、6月25日、ホールでの記者会見に臨みました。そこでのやり取りを軸にお話をお伝えします。
マンデルリング・クァルテット。右からベルンハルト・シュミット(チェロ)、ローラント・グラースル(ヴィオラ)、ナネッテ・シュミット(第2ヴァイオリン)、セバスチャン・シュミット(第1ヴァオリン)の各氏。
ワインが醸す芳醇の響き
チェロのシュミット氏語る ~「大阪クラシック」参加公演~
■「室内楽専門に」志す
第1ヴァイオリンのセバスチャン、第2ヴァイオリンのナネッテ、私の3人はシュミット家の兄妹です。父は音楽教師で私たちは幼い頃から彼の奏でる室内楽に囲まれ成長しました。その影響で、早くから室内楽を始め、今も交響楽(オーケストラ)でなく、室内楽を専門に演奏をしています。ドイツでは、室内楽活動を支援するさまざまな社会基盤があるんですよ。ちなみにヴィオラのローラント・グラースルの家は代々、弦楽器工房で彼が使っている楽器は、お父さんが製作したものです。
■本番中でも心にゆとり
子どもの頃から一緒に演奏してきたお陰で、合奏の時は音楽的にお互いがどう反応するかを良く知っています。だから本番中も、精神的に「ゆとり」を持っていることができます。私たちは生演奏中に起こる「偶然」を大切にします。また、その日、演奏するホールの響きを、巧みに生かすように心掛けています。ザ・フェニックスホールは、舞台と客席との距離がとても近い。室内楽は聴衆が音楽を直に「体感」することが大事ですから、理想的な会場。また響きが非常に素晴らしい。
■民主的な音楽づくり
弦楽四重奏団によっては、ある一人がリーダーを務める例もあります。でも私たちは民主的な音楽づくりをしていて、その時々、重要なパートを受け持つ者が音楽を主導します。私たちの音をワインに例えると、男性3人が辛口のリースリング。一方で女性のナネッテはフルーティーで柔らかな味わいを醸しています。私たちの練習所はぶどう園の中にあり、元々はワイン醸造所でした。ここで熟成したアンサンブル。ワインのように味わい深い合奏を、楽しんでください。
■起伏富む作品に魅力
今回、プログラムの最初に組んだのはショスタコーヴィチ。15曲ある彼の弦楽四重奏曲の全作録音プロジェクトに取り組んでいます。短い曲でも、音楽的には驚くほど起伏に満ちていて、たいへん興味深い。また後半で演奏する、ベートーヴェンの第13番作品130は、音楽的に成熟した後期の作品の中でも、とりわけ重要。第5楽章カヴァティーナの叙情性や、最後の楽章の大きなフーガなど、6つある楽章ごとの性格付けが変化に富んでおり、弾いていて実に楽しい。
■トーン氏共演楽しみ
室内楽の醍醐味の一つに、新たなアーティストとの出会いがあります。コミュニケーションし、刺激を与え合う。私たちは1997年から毎春、ハンバッハの古城を拠点に室内楽音楽祭を開いており、毎回10人ほどの客演を招きます。たとえばブラームスと同時代のフリードリヒ・ゲルンスハイムら知られざる作曲家の曲も取り上げたりしていますが、発売と同時にチケットが完売する公演もあり、なかなかの人気なんですよ。大阪フィルのブルックス・トーン氏との共演は光栄なこと。本番が実に楽しみです。
ベルンハルト・シュミット氏と歓談する、大阪フィルトップ・クラリネット奏者ブルックス・トーン氏(左)=6月24日、大阪市内。トーン氏は、シュミット氏との会合を終え「シュミットさんは大変気さくな方。共演は今回が初めてですが、モーツァルトでは楽しい合奏が出来そうで、楽しみにしています」と話した。
■大阪クラシックとは 「大阪クラシック~御堂筋にあふれる音楽~」は、大阪市の顔ともいえる御堂筋に人の流れと賑わいをつくり出すとともに、市民の皆様に第一級のクラシック音楽を気軽に楽しんでもらうことを主な目的として、開かれます。2008年9月7日(日)から13日(土)までの一週間、御堂筋沿いのビル、大阪市役所玄関ホール、中央公会堂などにおいて、さまざまなコンサートが計画されており、60公演以上が開催される予定です。
■本稿執筆にあたっては、ドイツ文化センター、大阪フィルハーモニー交響楽団のご協力をいただきました。