バロックヴァイオリン サイモン・スタンデイジさんインタビュー
掲載日:2003年10月21日
――バロックヴァイオリンはどんな経緯で始めたのですか?
学生時代、友人のクリストファー・ホグウッド(現エンシェント管弦楽団指揮者)が勧めてくれた。バロックヴァイオリンは私の求める音色にぴったりだった。現代の演奏家は、300年前の作品を当時と全く異なる文化環境の中で奏でている。しかし、当時の音楽も、そこに宿る人間本来の姿にも、時空を超えて心に訴える力はある。こうした訴えを如実に蘇らせようと試みる時、古楽器は強い味方だ。
――古楽の演奏で、留意されていることは?
私の手掛ける作品は、出版されていないものも多い。図書館などで資料を探し、独自に譜を作る。よく知られた曲を演奏する時も原譜を確認し、最新の研究や昔の論文・音楽家の日記、紀行文などもよく読み音楽本来の姿を確かめるようにしている。
――演奏家の役割についてどう考えますか?
当時の様式や、作曲家の意図には可能な限り忠実でありたいが、どんな演奏家でもそうした音楽を聴衆に伝える時には、自分の考え方・感じ方のフィルターを通すことになる。作曲家の意図と演奏家としての自分の個性など、バランスを取ることが大切だ。
――いま興味のある作曲家は?
ある作曲家の作品に集中的に取り組むと、その人を個人的に知った気になる。ハイドンの音楽を弾き込み、同時に彼の時代の文献を読み解くことで、当時の人々が親しんでいた、彼の愛すべき人柄を感じることができた。テレマンやルクレールにも人間的な魅力がある。しかしバッハとやヘンデルには、畏れや尊敬といった感情が先に立つ。
――これまで共演して印象の残った音楽家・団体は?
(英国のチェンバロ奏者)トレヴァー・ピノックと彼の率いる「イングリッシュ・コンサート」との共演。古楽ブームの最初期、刺激的な日々は忘れられない。ホグウッドのエンシェント管弦楽団、私の主宰するザロモン弦楽四重奏団とも充実した音楽づくりを続けている。90年に信頼出来る仲間とバロックグループ「コレギウム・ムジクム(CM)’90」を立ち上げた。サロモンとはハイドンの弦楽四重奏を、CM’90とはテレマンやヴィヴァルディ、ルクレールの作品に取り組み、成果を挙げてきた。今回のコレギウム・ムジクム・テレマンとの共演も大いに楽しみだ。
――今回、弟子の中山裕一さんと共演されますね?
ユーイチとは8年来の付き合いだ。教えていても、一緒に演奏しても実に楽しい。彼の中では音楽への没頭と作品の深い理解、そして才能が渾然一体となっている。ソロ、室内楽、管弦楽団-とさまざまな活動に取り組んでほしいし、教育に携わることも成長に役立つと思う。私自身、長く教育に携わっており、CM’90や客演する演奏団体に、かつての弟子が多くいる。ロンドンの王立音楽院やドイツのドレスデン音大の生徒ともよく合奏するが、音楽の捉え方が皆共通しており、心底合奏を楽しめる。今回もきっと、そんな喜びを感じることが出来るだろう。
◆Simon Standage◆
英キングスカレッジ出身。オランダ室内管弦楽団でシモン・ゴルトベルクの指導下、活動に携わり、その後イヴァン・ガラミアンに師事。イングリッシュコンソート創立メンバー。17世紀と18世紀音楽の専門家として知られ、ヴィヴァルディの『四季』でグラミー賞受賞。ソリストとしてヴィヴァルディのラ・チェトラ協奏曲やモーツァルトのヴァイオリン協奏曲全曲を録音。1981年ザロモン弦楽四重奏団を設立。現在、王立音楽アカデミーのバロックヴァイオリン部門の教授。独ドレスデン音楽大学でも指導に当たる。1990年アンサンブル「コレギウム・ムジクム’90」結成。1990年、「コレギウム・ムジクム・テレマン」のミュージック・アドヴァイザーに就任。