関西フィルコンサートマスターギオルギ・バブアゼさん
エヴォリューションシリーズの出演者は今 <*番外編*> =第13回(1999年6月23日)「グルジア、ルーマニア、日本 その20世紀音楽の今」
掲載日:2003年7月1日
私は、中央アジアのグルジア出身。首都トビリシの音楽院で学び、故国やイタリアで演奏していましたが1996年、大阪シンフォニカー交響楽団コンサートマスターとして来日しました。前後し楽団に入ったグルジアの音楽仲間ギア・ケオシビリ(チェロ)とザザ・ゴグア(ヴィオラ)、それとルーマニア出身のチプリアン・マリネスク(第2ヴァイオリン)で98年、トビリシ弦楽四重奏団を結成したのです。
弦楽四重奏はクラシック音楽の中では、偉大な音楽ジャンルの一つ。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス。そしてバルトークやショスタコーヴィチ。さまざまな時代の大作曲家が、膨大な作品群を残しています。彼らは弦楽四重奏によって親密で繊細な表現を試みてきました。深くて内面的な音楽なのです。
また弦楽四重奏は、奏者が自分の音楽性が率直に表現出来る、貴重な形態です。オーケストラで演奏する時、奏者は指揮者の音楽性に従うのが基本。単一パートを複数の奏者で奏でる弦楽器はこの傾向が強く、一人の音楽家としての裁量は大きくはない。でも室内楽、特に弦楽四重奏は音楽のあり方を主体的に決められる。私はグルジアで指揮者、ソリストとしても活動していましたが、日本でもこの3つを充実させていきたい。
エヴォリューションの企画は、知り合いのピアニスト篠原美樹子さんからの紹介で知り、共に申し込みました。四重奏団結成から1年ほどは練習を積み、活動を探っていましたが、あの舞台は私たちには実質的なデビューでした。公演では祖国グルジアやルーマニアの現代作曲家、さらに日本の武満徹(1930‐1996)の≪オリオン≫といった作品を紹介することにしました。
冒頭は、ルーマニア出身のベントイウの弦楽四重奏曲第2番「協和音の四重奏」。続いてグルジアのカンチェリの弦楽四重奏曲のための「夜の祈り」。武満の、チェロとピアノのための「オリオン」を挟み、再びグルジアのツィンツァゼの弦楽四重奏曲第11番と、ナダレイシヴィリのピアノ五重奏曲(ピアノは篠原さん)を取り上げました。武満以外は皆日本初演。ふだん接することのない作品ばかりなのに、温かい拍手をいただきました。グルジアには周辺からさまざまな人種が流れ込んで豊かな文化が育まれ、東洋の薫りも強い。男は伝統を重んじ、紳士的で、潔く振る舞う点など、サムライに通じる気質があり、日本人と共通のメンタリティがある。そんな事情も成功の背景にあるのかもしれません。
当日、1階アトリウムは開場前から長蛇の列。用意したプログラムはすべてなくなり、立ち見も出て、ホールスタッフの方々をてんてこまいさせてしまいました。でもお陰でこの舞台を機に、活動を軌道に乗せることが出来ました。その後もザ・フェニックスホールのほか大津や京都などで公演を重ねています。メンバーがオーケストラを替わったり、大学で教え始めたりで忙しいですが、今後も継続して活動を展開したい。内容はこれまでメンバー全員で話し合って決めてきたし、今後もそれは変わりませんが、個人的にはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲すべてを演奏したいですね。
―――お断り―――
バブアゼさんはエヴォリューションシリーズ出演の時点で、祖国や欧州では既に音楽家として幅広く活動されていたことから、今回は「番外編」と致しました。