Prime Interview アルタン

ケルト音楽の至宝、ザ・フェニックスホールに初登場!

掲載日:2018年9月14日

英国のお隣の島国アイルランドでは、伝統音楽が今も現代に生きる音楽として息づく。90年代以降、世界的に人気が広まり、日本でも多くの人たちに愛されるようになったアイリッシュ・ミュージック。その代表格として誰もが認めるバンドが、アルタンだ。その看板は歌手でフィドル(ヴァイオリン)奏者のマレード・ニ・ウィニー。ピュアな美しさを持つ声で歌われる伝統歌にはどこか懐かしさを覚えるし、フィドルが先導する躍動感溢れるチューン(インスト曲)では思わず足を踏み鳴らしてしまう。その2本立ての魅力は待望のニュー・アルバム「ザ・ギャップ・オブ・ドリームズ」でも変わらない。現在のアルタンは、マレード、マーティン・トゥーリッシュ(ピアノ・アコーディオン)、キーラン・クラン(ブズーキ)、マーク・ケリーとダヒー・スプロール(ギター)の5人だ。(ギタリストはツアー先によって交替で参加。)去る3月のアイルランドの祝日セント・パトリック・デイの週に行われたニューヨーク公演の開演前にマレードに話を聞いた。

(取材・文:五十嵐 正/音楽評論家)

伝統音楽を演奏しても、
私たちは今を生きる現代のミュージシャン 

 

 

アルタンは北西部のドニゴール州の出身。アイルランド本来の言語ゲール語が話され、フィドル演奏が盛んという伝統文化が色濃く残る地域である。80年代初めにマレードが最初の夫で94年に癌で他界したフランキー・ケネディ(フルート)とのデュオで活動を始めたのがバンドの出発点で、「自分が最も良く知っている、自分を最もうまく表現できるものにこだわることを常に意識していた」と振り返るように、最初から地元の伝統にこだわり続けた。彼らが演奏するドニゴール産のチューンは、首都ダブリンの人びとを驚かせ、興奮させたという。「私たちがささやかな火花をもたらし、人びとは地域的な音楽スタイルに再び焦点を絞るようになったの」と、アイリッシュ・ミュ―ジックの流れに大きな影響を与える存在となったのだ。

 それからの彼らはドニゴールの伝統に強くこだわりつつも、英国のロック・レーベル、ヴァージンと契約するなど、広い間口で多様なファンを獲得してきた。近年のアルバムを振り返っても、05年の『ローカル・グラウンド』、10年のオーケストラとの共演作『アルタンwithRTEコンサート・オーケストラ』、12年の『ポイズン・グレン』、ナッシュヴィルで米国の名奏者たちと共演した前作『ザ・ワイドニング・ジャイル~広がる螺旋』と、地元の伝統に根ざす作品とその枠を超えて冒険する作品を交互に発表している。

 

――「ザ・ギャップ・オブ・ドリームズ」は地元のスタジオで録音したドニゴールのバンドという本来の立ち位置に戻ったアルバムです。あなたたちは折に触れてルーツを再訪して確認する必要があるんですね。

「私たちはドニゴールに戻らなくちゃならない(笑)。「源泉」に戻らなきゃいけないの。私たちにはとても重要なことね。実験的なことをやったり、コラボレーションをやったりするのは素晴らしいことよ。それは私たちが何者であるかの一部でもあるしね。コラボも大好き。でも、今回はすごくシンプルにしようと言った。ゲストはなしでね。だから、とても私的で、とてもシンプルなアルバムになった。長い間やりたかったものになったわ」   

 

――シンプルといっても、幾つかの発見があります。「ツイン・フィドル」の相方だったキーラン・トゥーリッシュの脱退で、ギターとブズーキの存在感が増しました。その繊細な伴奏がアルタンの音楽に豊かな色彩を与えているとこれまで以上にわかります。

「ええ。彼らの持ち込んだ味つけのおかげで、いろんな色彩を見せていると思う。マークの美しい演奏にとても刺激された曲もあった。出来上がったアルバムを聴くと、これまでと異なる色と影をたくさん見つけられるわ」  

 

――新しい作品に取り組むとき、どういったところにインスピレーションを求めます?

「伝統音楽をやっていても、私たちは今を生きる現代のミュージシャンだから、あらゆる音楽に耳を傾ける。デヴィッド・ボウイとか、ああいった人たちだって私に影響を与えている。彼らの音楽を演奏はしないけど、それらも人生の一部なの。それが異なった形で持ち込まれているわ。そして、時にはちょっと実験的にもなるし、即興はたくさんやる。それまでやっていないことを試みる。だから、どんな古い曲も現代のものとして歌えると感じている。新作は私たちの音楽を新たな段階に進めたと思う」  

――伝統を伝えていくことに関してですが、コンサートで必ず誰から学んだかを丁寧に話しますよね。歌の物語の解説はもちろん、インストのチューンも出所を明らかにします。

「すべてのチューンには物語があるの。その背後にある物語を知らなければならない。どこから来たのか。祖父から学んだ? それとも母から? 私たちはメロディーだけを受け継ぐんじゃない。その曲を弾いていた人の人柄や品性も。すべてはその人間性と関係するからよ」 
  

――今の若者たちはインターネットでもたくさんの過去の音源や映像にアクセスして曲を学べますが、それだけでは充分じゃない?

「私が彼らに教えることは、音楽がどこからきたのか、何についてなのかなの。私は(伝説的なフィドラーの)ジョン・ドハティやコン・キャシディを知っていた。彼らの人柄や物語を伝えていくことは、やらなくちゃいけないことの一部だと感じる。だって、これらのチューンは空気から生まれたんじゃない。人から伝えられたもので、そこにはその人柄が確かに反映している。その人生ゆえの音楽で、それを伝えていこうという感覚があった。彼らの寛大さとその気質が感じられるの。
私にとっての伝統的なアイリッシュ・ミュージックとは、そこに聞こえている音だけじゃなくって、人とその生い立ちと歴史と愛情と寛大さと・・・すべてが関係しているものなの。それはコンピューターからは学べない。誰だって何でも機械的に学ぶことができるけど、それは人を感動させないわ。その音符を演奏するだけじゃ、私を感動させない。感情を与えてくれないから。そういった演奏に興味はないし、感動は受けない。世界一のテクニシャンが演奏してもね」   

 

――演奏するのは音符だけではない、と。

「音符だけを演奏なんてできないわ。何の意味もない。私は演奏に自分自身を300%こめている。私の演奏は完璧じゃないかもしれないけど、300%をこめようとしているの(笑)。舞台に立つ私はエンタテイナーでもあるわけだけど、何よりもこの音楽が何についてのものかを伝えたいの。ただの音符じゃなくって、感情であり、喜びや悲しみ、すべてがこめられているのよ」  

 

――それでは、年末の来日公演でも300%で演奏してくれますね?

「もちろんよ!」

 

――その来日公演についての抱負を。

「日本に戻れることをすごく楽しみにしているわ。日本の人たちはアイリッシュ・ミュージックを本当によくわかってくれている。どうしてかしらといつも考えているんだけどね。高いビルが建ち並び、すべてがとてもモダンな社会なのに、神秘的なものを求める強い気持ちがあるように感じるの」

 

――キーラン脱退後、ツアーによってはゲスト奏者を迎えていますが、日本公演はどうなりますか?

「このまま(4人編成)で行くべきと思うわ。(後任を加えない)今の私たちが私たちという意識的な決断をしたのだから。(やはり4人編成だった)バンドを始めた頃と同じだからか、もっと気楽にも感じているし。私たちがとても楽しんで演奏していることが聞き取れると思う。人生は変わっていくし、それを直視して受け入れなくちゃならないの」

 

――4人での演奏を楽しんでいるんですね?

「とてもね。空間があるから。もっと創造的な自由を与えてくれる空間があるの」