Prime Interview タマーシュ・ヴァルガ

掲載日:2026年1月14日

世界最高峰のオーケストラの首席奏者を長年務めつつ、室内楽やソロ活動にも力を入れてきた名手タマーシュ・ヴァルガさん。恒例のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでチェロ・セクションを率いている姿をご覧になったことのある方も多いだろう。ハンガリー・ブダペスト出身、同地のリスト音楽院を卒業後、1998年にウィーン国立歌劇場管弦楽団入団、2001年よりウィーン・フィルの首席チェロ奏者として活動している。親日家の多いウィーン・フィルのなかでも殊に日本びいきとして知られ、演奏家としてのみならず、若い世代の指導にも積極的に携わってきた。ザ・フェニックスホール登場は今回が二度目。「私にとって大阪はリラックスできる街です。また親しい友人たちもいますので、大阪で演奏会をおこなうことは私にとって特別なことなのです」と語る。リサイタルの曲目にこめた思いなどをうかがった。
(後藤菜穂子 音楽ライター)

 

 

— ヴァルガさんは2024年にザ・フェニックスホールでリサイタルを開かれましたが、ホールの印象はいかがでしたか?

 

とても良い思い出があります。ザ・フェニックスホールは室内楽にぴったりの大きさですし、弦楽器奏者—とくにチェリスト—にとって弾きやすい音響です。再び演奏できることをとても楽しみにしています。

 

—オーケストラの首席奏者として演奏するときとリサイタルで演奏するときとでは、どういった違いがあるのでしょうか。

 

ウィーン・フィル/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の首席奏者としては、楽曲のなかで小さなソロを弾く機会がしばしばありますが、それはすばらしい瞬間であり、聴衆とより直接つながれる瞬間です。一方、リサイタルでは、終始個人的な表現を貫き、音楽を通じて物語を紡ぐことになります。もちろん、それにはより大きな責任が伴いますが、やりがいがあります。

 

— 今回のプログラムにはどのような考えがこめられていますか?

 

プログラムの前半は、ベートーヴェン、シューベルトといった古典の曲で構成し、あまり知られていない作品も取り入れました。クララ・シューマンは有名な夫のかたわらで、作曲家として評価を得るのに苦労しましたが、「3つのロマンス」を聴けばじゅうぶんに評価に値する人物だったことがわかるでしょう。
後半では、室内楽のパートナーのピアニスト、西岡沙樹さんに目を向けました。西岡さんがラフマニノフのチェロ・ソナタをお弾きになるとおっしゃったので、ぜひやりましょうということになりました。またフォーレのディスクをリリースされていらっしゃるので、「エレジー」は当然のチョイスでした。

 

— ベートーヴェンのチェロ・ソナタ 第4番は、彼の5作のチェロ・ソナタのなかではどんな位置付けの曲ですか?演奏する上で心がけていることはありますか?

 

ベートーヴェンの5つのチェロ・ソナタはそれぞれ独自の性格をもっています。第4番のソナタは繊細かつ親密に始まり、ピアノとチェロのひじょうに個人的な対話へと発展し、第2楽章も聴き手に思索を促すようなゆっくりとした部分で始まります。一方、第1楽章の後半は活力と喜びに満ちています。
心がけているのは、エネルギッシュさを出しつつも、攻撃的あるいは荒々しい表現は避けることです――残念ながらそうした演奏が多いのですが。ベートーヴェンはアクセントを巧みに使い、突如感情を爆発させるような音楽を書きましたが、けっして攻撃的ではありませんでした。また、この曲はもともとフォルテピアノとガット弦を張ったチェロで演奏されていたことを忘れてはなりません。

 

— シューベルトの歌曲は、ヴァルガさんご自身の編曲だそうですね。シューベルトの歌曲がお好きなのでしょうか?ヴァルガさんもお歌いになりますか?

 

子どものときは聖歌隊で歌っていましたが、声変わりしてからは歌っていません。でも昔から歌曲が大好きで、自分で編曲して――シューベルトの他にもブラームス、ラフマニノフ、フォーレ、グリーグなど――をさまざまなプログラムで演奏してきました。もしチェリストになっていなければ、ピアノを弾き、歌曲の伴奏者になっていたと思います。

 

— フォーレの小品を2作取り上げますが、フォーレの魅力はどんなところにありますか?

 

ガブリエル・フォーレの音の世界は、ベートーヴェンやクララ・シューマンとは全く異なるものです。観客のみなさんはコンサートの間チェロとピアノだけをお聴きになるわけですから、なるべく違った音の風景を味わっていただきたいと思うのです。そしてフォーレを追求されている西岡さんはぴったりのパートナーです。西岡さんとは今回が初共演ですが、すでに音楽をとおして親交を深めており、5月にご一緒するのをとても楽しみにしています。

— ラフマニノフのチェロ・ソナタは言わずと知れた名作で、たいへん情熱的な作品です。この曲に関するなにか特別な思い出はありますか

 

ラフマニノフのソナタは大好きな曲です。この曲については日本での個人的な思い出がひとつあります。15年ほど前だったでしょうか、草津の音楽アカデミーでのレッスン中にこの曲の一部を弾いたのです。すると受講生がレッスン後に、「先生、ぜひこのソナタを録音してください!」と言ったのでした。その学生はその後若くして亡くなられ、私はまだ録音を果たしていないのですが、このソナタを演奏するたびに彼のことを思い出します。

 

— ヴァルガさんは、若い音楽家たちを教えたり、指導したり、自分の経験を次世代に伝えることに力を注いでいらっしゃいます。

 

私は幸運にも、実にすばらしい音楽家たちと共演し、幅広いレパートリーを演奏する機会を得てきました。また、著名な教師たちのもとで学ぶ機会にも恵まれました。大学での充実したレッスンやマスタークラスを受けた後の、あの幸福感を今でも鮮明に覚えています。1回の充実したレッスンは、その後何週間、何ヶ月間にわたってやる気を引き出してくれるのです。若い音楽家たちと知識を分かち合うことはいつも楽しみです。日本では、草津のアカデミーの講師を10回務めているほか、日本チェロ協会でマスタークラスを行なっています。

 

— 最後に、日本でのオフの時間はどのようにお過ごしですか? 

 

2026年5月で、日本を訪れるのは48回目になります。そのことからも、私が日本をいかに居心地良く感じて、どれほど楽しんでいるかがおわかりいただけるでしょう。コンサート・ツアー中は個人的な活動をする時間はあまりありませんが、ありがたいことに、いつだってできるのは友達と会って日本食を楽しむことです!