Prime Interview 小川響子(Vn)さん、水谷友彦(Pf)さん

フォーレ没後100年記念 「Faure and more Faure」ピアノ五重奏曲 全曲演奏会

掲載日:2024年11月18日

フォーレ没後100年の記念年に若手のトップクラスの演奏家がザ・フェニックスホールに集結し、フランス室内楽の至宝、フォーレのピアノ五重奏曲全2曲に挑むという。「フォーレが弾けるなら、ぜひ参加したい!」との熱い思いを胸に秘めた出演者は、ヴァイオリンの小川響子、郷古廉、ヴィオラの中恵菜、チェロの水野優也、ピアノの水谷友彦という、会場となるザ・フェニックスホールに所縁の有る精鋭揃い。全国的にも注目のコンサートだが、SNSがきっかけで実現に至ったという隠れたエピソードや、コンサートに向けた抱負や聴き所などを、葵トリオのヴァイオリン小川響子と、ザ・フェニックスホールのレクチャーコンサートシリーズ「ピアノ三重奏の歴史」で好評を博しているピアノの水谷友彦が語ってくれた。
(磯島浩彰 音楽ライター)

 

 

「フォーレが弾けるなら…」を合言葉に、

若手トップクラスの音楽家が集結。

 

 

 

 

 

――フォーレのピアノ五重奏曲1番、2番全曲を聴ける機会は少ないと思います。

 

 小川:フォーレのピアノ五重奏を演奏する機会は珍しいです。ピアノ五重奏曲の定番としてはシューマンやブラームスが有名ですが、そもそもピアノ五重奏というと音楽祭などで一度限りのアンサンブルとして取り上げるか、巨匠ピアノと常設の弦楽四重奏団が演奏するイメージがあります。今回はフォーレのピアノ五重奏曲を2曲とも演奏できるという事で、本当に貴重なコンサートだと思います。

 水谷:フォーレのピアノ四重奏曲もピアノ五重奏曲も音楽通の間では根強い人気を持つ曲ですが、理解しやすい音楽かと言うと、必ずしもそうではありません。複雑な和声進行や一見とらえどころのない音楽は、うまく言葉でいい表せない作品といえると思います。この2曲、ヴィオラで演奏されるメロディーが本当に美しいのです。フォーレはヴィオラがお気に入りだったそうで、有名な『レクイエム』を聴いてもそれは分かります。実はフォーレは難聴で、高音と低音がゆがんで聞こえたそうなのです。人の声に近いヴィオラの中音域の音はまだちゃんと聞こえたようで、そのような事からもヴィオラの音に頼っていたのではないかと思うのです。

 

――このコンサートは、小川さんと水谷さんのSNSでのやり取りを偶然ザ・フェニックスホールの方がご覧になられていて実現したそうですね。

 

 水谷:小川さんがSNSで「フォーレのピアノカルテットやりたいなぁ」と呟かれたのが始まりでした。「僕もやりたいです!」 と返した後、小川さんも僕も懇意にさせて頂いているザ・フェニックスホールの方から「うちのホールでフォーレのクインテットをやりませんか⁈」と思いがけなくも嬉しいお申し出があり、今回の演奏会が実現しました。

 小川:葵トリオが師事しているフォーレカルテットのピアニスト ディルク・モメルツからレッスンを受け、彼らの演奏するフォーレのピアノ四重奏曲のCDを聴くうちに、思わずXで「やりたい!」と呟いたのですが、思いがけない展開に驚きました。

 水谷:ザ・フェニックスホールのレクチャーコンサートシリーズ「ピアノ三重奏の歴史」でご一緒している郷古さんと水野さんに打診したところ、二人とも「弾きたい!」 ということでした。また、小川さんからヴィオラの中さんに声をかけていただき、5人のメンバーはすぐに決まりました。

 

――ピアノ五重奏は、お二方にとって身近なピアノ三重奏と比べてどこが違いますか。

 

 水谷:ピアノ五重奏は、弦楽四重奏という一つの完成された体系と、ピアノとの組み合わせで、とてもスケールの大きな室内楽形態です。フォーレは5つの楽器を斬新に活用し、色彩豊かな響きを生み出すことに成功しました。ピアノパートは大変難しいです。響きを優先しているからなのか、実際に弾くと右手と左手がくっ付き過ぎたり、難しいポジションで書かれています。

 小川:普段ピアノ三重奏を弾いている者からすると、弦楽器が2台増えて内声が加わることで、全く違うサウンドになります。ピアノ五重奏とピアノ四重奏では、弦楽器の密集度が違います。弦楽四重奏の完成度に加えピアノが加わる事で、ダイナミックな表現が可能になります。

 

――小川響子さんと郷古廉さんという贅沢なヴァイオリンの競演。共にオーケストラでコンサートマスターをされていますが、今回はどちらがファーストを弾かれるのでしょうか。

 

 水谷:お二人でファーストヴァイオリンをスイッチします。1番は小川さんがファースト、2番とレイナルド・アーンは郷古さんがファースト。スイッチすることで変化が生まれ、ピアノ五重奏の魅力が増すはずです。実際に1番は、セカンドヴァイオリンのほうが主導的であったり、とてもおもしろい作りをしています。

 小川:参加させて頂いている「小澤国際室内楽アカデミー奥志賀」では、勉強のためにファーストとセカンドを交代することが多いので、個人的に抵抗はありません。フォーレの2曲を内声からも外声からもアプローチできるので楽しみです。

 

――今回ピアノ五重奏曲を2曲とも弾くプログラムですが、カップリング曲として何を演奏されるのか注目していました。レイナルド・アーンのピアノ五重奏曲ですね。

 

 水谷:レイナルド・アーンは、ベネズエラに生まれフランスで活躍した作曲家ですが、歌曲以外の作品はあまり知られていません。フォーレを尊敬していた彼の作品は歌心に溢れ、ピアノ五重奏曲もフォーレに負けないほど素敵な曲なので、この機会にお客様にお聴き頂けることが嬉しいです。

 小川:以前、アーンの別の曲をたまたま弾く機会があって、私には馴染みの作曲家でした。水谷さんから送って頂いた音源を聴いて、すごくイイ曲で、さすが水谷さん!と思いました。

 

――会場となるのがザ・フェニックスホールです。ホールの魅力と、お客様へのメッセージをお願いします。

 

 水谷:フォーレとアーンのピアノ五重奏曲が並ぶプログラムで、フォーレのピアノ五重奏曲を楽しむには、うってつけのプログラムだと自負しています。ぜひこの特別なプログラムでフォーレの奥深い世界を楽しんでください。このホールは演奏家にとっても聴衆にとっても至福の空間です。今回はここでフォーレを聴けるまたとない機会。皆様のご来場をお待ちしています。

 小川:ホール一杯に音が充満し、弾いていても全ての音が聞こえる素敵な空間です。音楽に浸るにはピッタリだと思います。今回は響きの豊かなザ・フェニックスホールで、念願のフォーレを演奏致します。ぜひお越しください。