Prime Interview アンサンブル・ミクスト

同じメンバーで進化を続ける木管五重奏団

掲載日:2022年11月8日

2003年から活動を続けるアンサンブル・ミクスト。木管五重奏を同じメンバーで定期的に活動しているのは、世界的に見ても稀有な存在だろう。個々がオーケストラやソロでも活躍しながら、アンサンブルへの情熱を絶やすことが無い。2011年の大阪国際室内楽コンクール入賞と大阪に縁のある団体だが、今回は11年ぶりの大阪での出演。ザ・フェニックスホールの親密感溢れる空間では、どんなサウンドを響かせてくれるのか。
ミクストは木管五重奏のオリジナル作品だけでなく、自身の編曲でレパートリーを広げるなど、木管五重奏の新たな地平を切り拓いており、今後もどんな展開を見せてくれるのか楽しみなアンサンブルだ。ミクスト結成の経緯から今までの活動、そして今回披露するレパートリーを5人のメンバーに語ってもらった。コンサートでは、木管五重奏への飽くなき欲求を感じさせる5人の甘美な音楽を期待したい。
(取材・文:河井拓/公益財団法人 日本室内楽振興財団)

 

 

多彩なプログラムで11年ぶりに来阪!

 

 

 

――間もなく結成20年を迎えるそうですね。アンサンブル・ミクストが結成された経緯を教えていただけますか?

 

 私たちが学んでいた東京藝術大学では2年生から室内楽の授業を受けられるので、木管五重奏で受講したのがきっかけですが、最初はホルンは別の奏者でした。私たちはアンサンブルの練習が本当に好きで、「練習魔」と言われるほど練習していたのですが、金管楽器であるホルンは負担が大きいのです。1年間の授業が終わった後は、暫く木管四重奏で活動していた時期もありましたが、「やっぱり五重奏をやりたい!」という思いが募りました。その時に「2学年後輩に優秀なホルンがいるぞ」って聞いて即スカウトして、嵯峨が加わって今のメンバーになりました。

 

 

――大学を卒業されても、同じメンバーで継続されているのは珍しいですね。

 

 やっぱり木管五重奏を取り組み続けたいという希望はありましたね、もう純粋にアンサンブルが楽しくて。梶川と本多は海外に留学していた時期もありましたが、このメンバーでミクストを継続しているという意識は常にありました。2011年に大阪国際室内楽コンクールを受けたのが一つの契機になりました。コンクールの準備は色々大変で、、、、実は本多はまだ留学中だったんですよ。だから残りの4人で練習した録音を送って調整していました。Zoomの無い時代によく遠隔練習出来たなと思います(笑)。結果的に3位を頂いて、多くの先生から「絶対に続けた方が良いよ。」と言っていただいて、東京でデビューコンサートを開催しました。その後は自主公演だけでなく、ホールなどからの依頼やアウトリーチなど活動の幅が広がりました。今年はNHK公開収録もあります。でも、実は大阪ではコンクール以来演奏する機会が無かったので、ザ・フェニックスホールで出演することが出来て本当に嬉しく思います。折角大阪で出演するので、11年前にコンクールで演奏した曲もプログラムに含めています。

 

――今回のプログラムは本当にバラエティ豊かですね。

 

 ミクストらしさが良く伝わるプログラムを考えました。ライヒャとヴィラ=ロボスは、コンクールで掘り下げた曲です。コンクールから11年経ち、進化したサウンドをお届けできたらと思います。私たちはモーツァルトの音楽も好きでCDも出しています。今回はそのCDからセレナード第12番と、新しく劇場支配人序曲を本多が編曲しています。あとは、現在プロコフィエフの作品のCDを制作しているのですが、そこに収録している「ロメオとジュリエット」から幾つか抜粋。また、陽の目を浴びていない作品の紹介も大切にしているので、ミヨーの「2つのスケッチ」を取り上げます。これは、ずっとやりたかった作品ですが、今回ようやく初めて取り組めます。大阪のコンクールから今までの歩み、様々な編曲や新作への取り組みなど、ミクストの要素が存分に詰まった構成です。

 

――モーツァルトは木管五重奏を作曲していませんが、ミクストが随分編曲されていますね。

 

 元々、木管五重奏版の楽譜もあったのですが、実際に音を出してみると「こちらの方がバランスが良くなるじゃないか」などのアイデアが出て、自分たちで変えていくことが多いのです。原曲に近いような響きを目指してディスカッションしていくと、原型をとどめなくなってしまう場合がある。そして手書き譜のようになると、もはやミクスト編曲ですね(笑)。今回の劇場支配人序曲は本多が一人で編曲を担当しています。編曲中も木管五重奏に編曲しているというより、メンバーの顔を思い浮かべながら作っています。「まーくん(尾上)は、このあたりの音域が得意だよね」とか。この劇場支配人は曲調が華やかで、コンサートの最初に相応しいですね。セレナードは元々、フルート以外の楽器が2本ずつの八重奏なんです。原曲の良い部分は崩したくなかったので、元の音楽で聴きたいポイントは尊重しながらフルートを加えました。各楽器がメロディーに回っても、ハーモニーやバスラインを担当しても、それぞれとても素敵な音楽です。モーツァルトの時代はフルートが参加できる音楽がとても少なく、フルートでモーツァルトの憧れの名曲を演奏出来、聴いて頂けるのが嬉しいです。これはミクストだからこそ出来る取り組みですね。

 

 

――プロコフィエフはCDも制作されているのですね。

 

 プロコフィエフは元々「ピーターと狼」をアウトリーチでも演奏していて、いつかCDに出来たら良いねと話していました。そこで今回の「ロメオとジュリエット」と合わせて録音しています。プロコフィエフは管楽器の音色感が面白いのですが、それが上手く活かされている。溌溂とした響きというのは管楽器と相性が良いですね。

 

 

――木管五重奏と言えばライヒャですね、24曲も作曲しています。

 

 当時はセレナードのようにフルートが入っていない編成が多かったのですが、フルート奏者でもあったライヒャが木管アンサンブルにフルートを組み入れた。つまり木管五重奏の編成を作ってくれた作曲家ですね。ライヒャは他にも幾つか取り組んだことはありますが、今回のニ長調はコンパクトで響きも明るく、聴きどころが整理されて洗練されています。それに、今回は大阪に戻りますので、迷いなく自分たちの得意な曲としてこの作品を選びました。

 

 

――今回は最後にヴィラ=ロボスのショーロ形式の五重奏曲を演奏されます。
(※「ショーロ」とは、ブラジルのポピュラー音楽のスタイルの一つ)

 

 コンクールで演奏した時には、これが審査委員の先生方から好評をいただいて、受賞記念コンサートでも演奏した記憶があります。南米のリズムのようなものに感じられますが、複雑でとても難曲なんです。楽譜もガイドなどの書き込みだらけ(笑)。リズム遊びが特徴的なのですが、中間部のショーロの歌の様な部分、独特な哀愁漂う雰囲気を上手く出したいですね。11年前はとにかく演奏することでいっぱいだったのですが、今は南米の文化やキャラクターなども段々分かってきたので、そういうことも表現できるよう準備したいと思います。昔の自分たちに挑戦ですね。コロナ禍もあって、最近は自分たちの演奏したいプログラムのコンサートの機会も少ないので、今回のチャレンジングな曲目は本当に楽しみにしています。大阪は活動のターニングポイントになった特別な地ですので、コンサートに出演できるのを本当に楽しみにしています。