Prime Interview 金子三勇士さん コハーン・イシュトヴァーンさん

盟友による最強デュオ、ザ・フェニックスホール初登場!

掲載日:2019年7月19日

 今年2019年が、日本・ハンガリー外交関係開設150周年の記念年であることをご存知だろうか。リスト、バルトークといったハンガリー出身の作曲家たちによる音楽は日本でもお馴染みであるし、未だにファンの多いセルやショルティといった往年の名指揮者たちもハンガリー出身である。また、「炎のコバケン」こと小林研一郎がハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団で桂冠指揮者のポジションにあったりと、クラシック分野での両国の文化交流はこれまでも非常に盛んであった。
 そんな日本とハンガリー、両国の関係を更に深めてくれるであろう若きふたりの音楽家――日本人の父とハンガリー人の母を両親にもつピアニストの金子三勇士と、ハンガリー出身で現在は日本に住むクラリネット・ソリストのコハーン・イシュトヴァーンがザ・フェニックスホールでデュオリサイタルを開催する。如何にして、このふたりは日本でデュオを組むに至ったのか? 東京文化会館 小ホールでのリサイタル(2019年3月)を終えたばかりのおふたりに話を伺った。
(取材・文:小室敬幸/音楽ライター)

 

互いをどこまでも高め合い続ける理想的なデュオ

 

 

――まずはお二人の出会いについて聞かせてください。

金子:私は6歳でハンガリーに行きまして、最初はバルトーク音楽小学校に通っていたんです。11歳からはハンガリー国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学することになったんですけれど、ハンガリーでは18歳までは義務教育があるので、音楽以外の科目をバルトーク音楽高校で学ぶことになりました。13歳の時にそこで出会ったのが彼(コハーン)なんです。
コハーン:私は、そこで音楽も学んでいました。
金子:確か特待生だったよね。一緒に数学や体育の授業を受けているクラスメートだったんです。クラスは8~12人くらいと小規模だったので、関係も密でしたね。まだ学生の身でしたからコンサートでの共演はありませんでしたが、休み時間になると遊びで(ハンガリーの伝統音楽である)チャールダッシュみたいなのを即興的に弾いたりしていました。

 

――金子さんはその後、16歳で日本に戻られましたよね。

金子:急に日本に戻ることになったので、それまでの交友が一度切れてしまったんです。当時はまだ今のようにSNSも普及していませんでしたし、しばらくは互いが何をしているのか知らない時期があって。たまに私がハンガリーに帰ると、偶然音楽院でばったり会ったりはしたんですけれど。
ところが、それから何年か後になって、ある日SNSを開いたら、彼が日本人の奥様と結婚して、袴を着ている写真がタイムラインに上がってきたんです。それで連絡をして、「いま何してるの?」って聴いたら、「東京音楽コンクールのセミファイナルが終わって、今度ファイナルに通ったんだ!」ときたので、応援にかけつけました

 

――そんなドラマチックかつ、現代的な再会だったとは(笑)。コハーンさんは、日本に来た時点で金子さんに連絡されなかったのですね。

コハーン:実は同級生たちの間で、三勇士くんはフィンランドに行ったんだということになっていたんです。
金子:おかしな話ですよね。誰にもそんなこと言っていないのに、あらぬ噂が(笑)
コハーン:その後、SNSで三勇士くんが日本で活躍しているのは見ていました。ただ、私も日本に来たばかりで忙しかったんです。

――なるほど、それでコンクールのファイナルが久々の対面となったのですか。そして、コハーンさんは見事優勝を飾ります。

金子:来た甲斐がありました(笑)。そこで色々一緒にやりたいねという話をしたわけです。
コハーン:でも、三勇士くんも私も忙しいから、なかなか予定が合わない(笑)
金子:お互いソリスト(独奏者)ですから、今では年に数回という共演が、スペシャル感があって丁度良いのかなと思っています。
コハーン:実は三勇士くんに言っていないことがありまして。私が日本に来たばかりの頃は、どんな仕事でももらえるのが嬉しかった。でも三勇士くんと再会してから、自分もソリストを目指そうと思ったんです。だから、クラリネット・ソリストと名乗るようになったのは彼がきっかけなんですよ。
金子:そうだったんだ!それは初めて知りました(笑)
  

――互いに刺激を与え合う素敵な関係であることが伝わってきます! その後、本格的なホールで初めて共演されたのは、意外にも2018年2月のことなんだそうですね。

金子:その前後にも、小さい本番では何回も一緒に演奏しているんですけどね。

  

――今回、おふたりの共演を実際に聴かせていただいたのですが、異なる個性が絡み合うことで互いの良い部分を更に引き立てていたのが印象的でした。

金子:少年時代をともに過ごした、共通の空気感が流れる私たちだからこそ、そうなるんじゃないでしょうか。色んな方と共演してきましたけど、彼と共演すると他の方では出てこないものが表れるんですよ……それも本番で! 逆にいえば、リハーサルでは全然でてこない(笑)
コハーン:世界的にみても、ふたつのタイプの音楽家がいると思うんです。ひとつめは、きっちりとリハーサルで色んなことを決め込むタイプ。ふたつめは私たちのように突然、ステージ上で色んなことが変わっていくタイプ(笑)
金子:だから、本当はリハーサルをあんまりしたくない。本番に出てくるものを楽しみたいんです。臨機応変型と言いますか。

――お国モノのハンガリー音楽では、かなり伸縮自在の演奏をされていたので、リハーサルで作り込んでいらっしゃるのかと思いました。

金子:実はあれ、リハーサルでは全く弾いていないんですよ。
コハーン:一緒に弾くのは1年振りだったよね。
金子:逆にぶっつけ本番じゃないと、あの空気ってなかなか出てこないんです。慣れてきちゃうのも駄目ですし。瞬間芸術といいますか、ああいう音楽にはその場の即興性が必要なんです。そもそも、私たちの間では「他のテンポ感はあり得ないよね」とか「絶対こうなるでしょ」というものが共有されているので大丈夫なんです。
コハーン:今日の演奏と、この前の演奏も全然違ったね。
金子:全然違ったね。なのに「あ、いま!」というタイミングが演奏中に分かるから不思議です。

 

――最後に、音楽家として互いに尊敬する部分を聞かせていただけますか。

金子:昔からなんですけれど、クラリネットという1本の楽器にとらわれない音楽をすることですね。彼がソリストでやると聞いた時に、彼だったらきっと出来るなと思えたのは、「クラリネットの音」を聴いているのではなく、「音楽」を聴いている感じがするからなんです。だから、自分のやりたい音楽を発信していくために普通はやらないことをしたりもするし、クラリネットらしくない音色が出ることもある。それが僕から見ても刺激を受ける部分であり、彼の演奏のなかで一番好きなところです。
コハーン:三勇士くんの他にも上手なピアニストは沢山います。でも、同じような曲を同じように弾くことなく、三勇士くんはリスクを取るんです。ステージ上で新しいアイデアを出してくれるので、いつも緊張感と興奮をもたらしてくれます。しかも、とても自然。いちばん大事なことですね。作品にあった解釈でありながら、新しさも感じられるんです。

 

――おふたりの出演される10月の演奏会で、今度はどんな新しいアイデアが生まれていくのかとても楽しみです。本日はどうも有難うございました!