Prime Interview クァルテット・エクセルシオ

大阪が輩出した世界トップクラスの弦楽四重奏シリーズが開幕 日本を代表するクァルテット・エクセルシオがその魅力に迫る

掲載日:2019年1月17日

3年に一度大阪で開催される大阪国際室内楽コンクールでは、これまでに多くの入賞団体を輩出してきたが、その中には世界中で活躍を続ける弦楽四重奏も数多い。そんな彼らが大阪に戻ってくるシリーズ「世界をリードする弦楽四重奏の響宴」が開催される。文豪ゲーテが『賢人たちの対話』と称した弦楽四重奏は1人の人間の一時の努力で成せる世界では無く、4人の理知的で優れた奏者が、長い時間をかけて練り上げる至高の芸術。それ故に、これだけのレベルの団体数が揃うのは貴重な機会となる。コンクール受賞から時を経て、更なる境地を切り拓いている弦楽四重奏は、さながら熟成の進んだワインを髣髴させるだろう。ぜひとも各国を代表するアンサンブルの響きに身を任せて、芳醇な音楽を味わってほしい。今回は1996年の第2回コンクールで2位を受賞し、国内外でトップクラスの活動を続けるクァルテット・エクセルシオに、弦楽四重奏の魅力や、シリーズで演奏される曲目について語ってもらった。

(取材・文:河井 拓/日本室内楽振興財団 プロデューサー)

 

シンプルな美しさ、

黄金律のような完璧なサウンドを求めて

 

 

――エクセルシオは弦楽四重奏として25年活動していますね。ここまで続けてきて、あらためて弦楽四重奏とはどんな音楽でしょう?

 室内楽にも色々な編成がありますが、弦楽四重奏はその中でも別世界というイメージになってきましたね。
 たとえばピアノ三重奏の場合などは、ピアノの響きの中である程度自由になれることもありますが、弦楽四重奏の場合は4人で本当に突き詰めて、こだわって掘り下げていかなきゃいけないし、熟成に時間が必要なのだと思います。そのように熟成されたサウンドはとても美しいし、訴えるものがあります。
 それにレパートリーは信じられないくらいに豊富ですね。「大変な名曲が幾つかあるな」という程度では無く、もう取り組み切れないほど膨大です。

 

――それは作曲家にとって、弦楽四重奏は取り組みたいジャンルだった?

 それは感じますね、一番取り組みたかった方も多いのではないでしょうか。最近読んだ作曲家について書かれている本では、必ず弦楽四重奏の話が出てきました。みんな「私は弦楽四重奏についてこう考えている」という主張を持っている。優れた作曲家というのは、必ず良い弦楽四重奏曲を作曲していると思います。
 時代や人によって作曲に至る経緯は違ってきますが、弦楽器4挺の響きというのはシンプルだけど、とても美しい。この4挺で鳴らすというシンプルな美しさが、弦楽四重奏の魅力なんでしょうね。
 また4人だからこそ、作曲家も色々と実験できるのでしょう。大人数の音楽だと逆に制限があるのかもしれないけど、4挺の楽器の可能性の中で、自分のアイデアをどんどん実験していける。だから同じ作曲家でも、音楽の世界が段々と変化していく。
 楽器の種類については、要素を増やすのではなく、要素を絞っていくことで豊かに出来るサウンドを突き詰めたのが弦楽四重奏なんだと思います。

 

――作曲家が実験的に取り組めて、サウンドを突き詰められるとのことですが、演奏家自身も自発的に、音楽に積極的になれるジャンルですか?

 例えばオーケストラの場合だと人数が多いので、全員で完璧に合わせるのは難しい場合があります。特に弦楽器は1つのパートを複数人が演奏しますので。そこで最終的には指揮者がいて、方向性を決定する。
 でも弦楽四重奏の場合は違って、1パートは1人しか弾かない。黄金律の様な完璧なサウンドを求める意識になれます。それぞれが能動的に取り組みやすく、音楽を表現する際にも自己の内面に迫るというか、演奏者自身の人間性のようなものも出てくる気がします。そのように本気で理想を追求する時には、4人という人数はバランスが良いですね。

――今回のシリーズでは、登場団体の全てがベートーヴェンを演奏します。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は聖書のように例えられる時がありますね。

 ベートーヴェンの素晴らしいところは、独立した4人の存在感やバランスでしょうか。
例えばハイドンの場合は、「メロディー」のパートがあった時に、残りは「それ以外の支える3人」とひとめとめに扱われることもあります。もちろん、それも素敵な音楽なのは確かです。
 しかし、ベートーヴェンの場合は4つのパートがそれぞれ確固たる存在感を持って、どこも足し引き出来ない構造になっている。もちろんメロディーなどの役割はあるけど、他のパートも「その他の3人」では無く、完全に独立した対等の4つのパートということです。全ての楽器の、全ての音に意味がある。
 聖書のように例えられるように、まさにひとフレーズずつ意味を全て考えてしまい、簡単には進められないという感じでしょうか。
 実際に聴いていても、演奏者の生きてきた経験や、善悪両面を含んだ人間性のような物が感じられないと、心に届かないように感じます。技術的に上手いだけだと、何か物足りなくなってしまいます。
  

――ベートーヴェン以外にも、ハイドンからロマン派、近現代の作品など、様々な音楽が演奏されます。エクセルシオもハイドンとシューマンを演奏しますね。

 そうですね、それぞれの作品に魅力がありますが、敢えて対比をするならハイドンは理性の世界のように感じます。哲学や人間の内面は語らずに、音そのものを構築している感じ。重力とか星の運航など、数学的な要素とリンクしているのかもしれません。
 それに対してロマン派の音楽は、人間の本能的部分や、情感などを感じさせる世界ですね。音楽の中でとても自分自身の事を語っていて、私小説のようでもあります。特にシューマンはその傾向が強い、「僕の想いを聴いてー」とプッシュしてくる。
 ロマン派の作曲家の場合、そのように音楽を通して作曲家の人間味を強く感じられます。

  

――そのように相手の人間味が出てくるからこそ、演奏者も人間なので…

 そう、共感できないなって思うことも、時々はある(苦笑)
 シューマンの人生って、ご存知の通り自殺未遂もしたし、悲劇的だった。妻であるクララも苦心して彼を支えた。弦楽四重奏は彼が幸せな時に作曲されたけど、演奏が進むにつれてドロドロのテレビドラマなどを見ているような感覚なのかもしれません。


――出演団体の拠点が5か国それぞれ違います。演奏者の国によって音楽のキャラクターに違いを感じたことはありますか?

 今回はチェコやルーマニアの団体が出演するけど、東ヨーロッパの音楽家は、印象としては華やかというより渋め。でも何というか優しい音で、とても音程が良いイメージですね。和声の捉え方など、「なるほど、それが正しいんだ」って正解を提示されたような音楽。あの音色や音程は絶対にマネでき無いって思うくらい、特別に個性的な音色だと思う。
 イギリスの音楽家の演奏は、どこか洒脱な感じの印象ですね。語り口が粋というか。ユーモアを感じることもありますね。
アメリカのアタッカ・クァルテットは、以前お会いしたことがありますが、とてもエネルギッシュで、パワフルな演奏という印象が残っています。
 日本からは私たちが出演しますが、ザ・フェニックスホールで弾くのは初めてなので、どのように響くのか楽しみですし、お客様がどのように反応してくださるのかワクワクしています。様々な国のクァルテットで表現や音楽も全然違うので、ぜひ5団体全てのクァルテットを聴いてお楽しみください。