Prime Interview 周防亮介さん

2017年2月
新企画「サンデー・サラウンド・サロン」に登場
若手ヴァイオリン奏者 周防亮介さん

掲載日:2016年11月30日

19世紀ヨーロッパの貴族の邸などで開かれ、文化や芸術、哲学や政治思想を育んだ「サロン」。その進取の気性と寛いだ雰囲気を現代に蘇らせる、ザ・フェニックスホールの新シリーズ「サンデー・サラウンド・サロン」が来年2月、いよいよスタートする。その幕開けを告げる初回に登場するのが、ヴィルトゥオジティと精神性の見事なバランス感覚で注目を浴びる21歳のヴァイオリニスト、周防亮介。当シリーズでは、フロア中央に設けられた舞台を聴衆が取り囲む特別レイアウトを取るだけに、俊英の美しい音色と瑞々しい音楽創りが、一層つぶさに感じ取れよう。「精神的にも、体力的にも、普段のステージとは少し違った、新鮮な感覚で臨みます」と語る周防。バッハとフランクの傑作に、クライスラーとパガニーニという過去のヴァイオリン・ヴィルトゥオーゾによる作品を配したプログラムを通して、「ヴァイオリンの多彩な魅力を、味わっていただければ」と力を込める。
(取材・文:寺西 肇/音楽ジャーナリスト)

 

 

追求続ける、自分の「音」を

 

 

 

新企画の“トップバッター”になりますね。

―こういった舞台設定だと、普段よりもいっそう、お客様を近く感じられると思います。今から、すごく楽しみですね。

 

 

どういったプログラミングに?

―前半は、クライスラーとバッハを無伴奏で。そして、後半はピアノとのデュオで、フランクとパガニーニを、と考えています。当初はシューベルトの「ソナチネ」など、“サロン”を意識した選曲も考慮しましたが、最終的には自分が今、弾きたい作品(笑)に収まった感じですね。それぞれ時代やキャラクター、テクニックが全然違うし、ヴァイオリンの様々な魅力をお伝えできると思います。

 

 

今回のパガニーニやクライスラーもそうですが、周防さんがステージで披露されるプログラムには、必ず過去のヴィルトゥオーゾの作品が含まれていますね。

―お客様も、ヴィルトゥオーゾ・ピースをとても楽しんでくださるし、今回もステージの雰囲気に、とても合うと考えました。クライスラーなど、ごく短いんですけど、彼自身が偉大な演奏家だったので、楽器のことを知り尽くして書いていることを実感します。そして、瞬時に“感じられ”て、お客様も聴き入ってしまう。ヴァイオリンの魅力が、ぐっと凝縮された音楽ですね。

 

 

バッハはいかかですか。

―実に難しいですね。国や楽派によっても、様々な奏法があって、まず自分はどう弾くべきかを決めなければならないし、「何拍目に重みを置くべきか」といったような、(バッハが作曲のベースとした)舞曲ごとの特徴を捉える必要もありますし、すごく時間がかかる作業が必要になります。かたや、本当に美しいなあ、とも思いますね。

 

 

フランクのソナタの魅力とは。

―近代のヴァイオリンとピアノのための作品の中で、最高峰に位置付けられているだけあって、一言で表すのは難しいのですが、やはり魅力的で美しい。昔から弾きたかったのですが、「まだ早すぎる」と言われ続けて…。実は今年に入って、やっと本格的に取り組み始めたんです。この作品が持つ、独特のフランスの薫りや空気感、色彩…年齢を重ねれば、もっと深みが出てくると思うんですけど、今は21歳の自分が理解し、表現できる限りのフランクをご披露したいと考えています。

 

 

共演の三又瑛子さんは、どんなピアニストですか。

―一言でいえば、すごいピアニスト(笑)。とてもエネルギッシュで、ともすれば、聴き手の耳がピアノにばかり行ってしまうほど、魅力的な音を出されます。周囲のヴァイオリニストも皆、「共演する時は、負けないようにしないと…」(笑)と言っていますね。

 

 

ザ・フェニックスホールで弾いたご経験は?

―小中学生の頃に出場した、全日本学生音楽コンクールの大阪大会をはじめ、実は何度かあります。無伴奏やデュオで演奏するのに丁度良いサイズで、響きも素晴らしい。実際に弾いていても、とても楽に音を響かせられる気がしますね。

 

 

ヴァイオリンを始めたきっかけは?

―5歳になった頃、子供のためのコンサートに行って、休憩時間の楽器体験で、ヴァイオリンに触らせてもらったのが最初です。その瞬間、夢中になって、毎日のように「やりたい、やりたい」と…。でも、母がピアノの教師だったので、「ピアノが家にあるし、こっちにしたら…」と取り合ってくれなかった。7歳になるまで言い続けたら、遂に両親も根負けして、レッスンに通うことになりました。

 

 

少し遅めの入門だけに、すごく練習されたのでは。

―毎週のレッスンが、とにかく楽しかった。母が練習のやり方を考えてくれて、20分弾いたら10分休んで…という風なことを1日に20回ほど繰り返していました。

 

 

プロの演奏家になることを意識したのは?

―小学校5年生の時ですね。奈良での先生のレッスンを受けるために、亀岡市から京田辺市へ家族ぐるみで引っ越したんです。5時間のレッスンが週3回あるんですけど、その時点で「このまま、やめられないんだろうな」と…(笑)。でも相変わらず、弾くことが楽しくて、全く苦にはならなかったんです。

 

 

演奏家になって良かった、と思う瞬間とは。

―正直、練習が大変なこともあるのですが…ステージに立って、お客様が喜んでくださって、温かい拍手をいただくと、そんなことも全部忘れてしまって、「弾かせて頂けて、良かった」と素直に思います。そもそも、ヴァイオリンを弾き続けてゆけること自体、特別なことで、周囲の支えがあってこそ。それだけに、毎回の演奏会へ賭ける思いはとても強いし、無事に終えれば達成感もあるし、その上、お客様に喜んでもらえるとなれば、本当に代え難い経験だと感じています。

 

 

将来はヨーロッパ留学も視野に入れられているとのことですが、中学3年生の時、スイスでの体験が鮮烈だったとか。

―ええ。ザハール・ブロン先生のプライベート・レッスンを受けるために、スイスのヴェルビエ音楽祭に行ったんです。レッスンはとても厳しくて、10日間、毎日違う曲を持って行くんですが、一度注意されたことができていないと、先生はとても不機嫌になるので、食事も喉を通らなくて…(笑)。当時、私はすごく太っていたんですけど、戻ってみたら、7キロも痩せていました。レッスンも良かったし、ダイエットもできて、一石二鳥でしたね(笑)

 

 

演奏に臨む上で、最も大切にしていることとは。

―「音」でしょうか。昔の巨匠たちは皆、ヴィジュアルがなくても、「この人の音だ」と分かる。それほどに、「音」は、重要です。最初の一音を聴いただけで「周防さんの音だ」と言ってもらえるような音を追求してゆきたいと常に思っています。

 

 

将来の目標は?

―音楽だけでなく、人としても成長して、色々な事を知り、勉強しなければならないと考えています。そのためにも、例えば、外国に行き、その文化や歴史を知り、経験することも必要だと思っています。そして、ダヴィッド・オイストラフのように、大らかに歌えるヴァイオリニストになりたい。心から音楽を歌って、胸に響く音を出せるように。それをずっと頭においておきたいな、と思います。

 

 

今後、新たに取り組みたいレパートリーは?

―作品を、どんどん“発見”できれば。近代や同時代の作品にも、挑戦してゆきたい。特に、委嘱などを通じて、作品を自分のものにできれば最高でしょうね。

 

 

最後に。ご自身にとって、「ヴァイオリン」とは?

―今やヴァイオリンを持たずに、出かけることは皆無。生活の一部で、身体の一部ですね。それに、私は言葉で自分を表現するのが不得意なので、自分の感情を素直に出せるのが、ヴァイオリンですね。そして、「音楽」だからこそ、救えるものがある。そして、言葉以上に、人の心に伝わる場面もある。とても神聖な存在だと思います。音楽を伝える者として、1人でも多くの人に、その素晴らしさを感じてほしい、と願っています。