Prime Interview 幣 隆太朗さん

ティータイムコンサートに登場
ルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズ コントラバス奏者
幣 隆太朗さん

掲載日:2015年11月13日

ドイツの名門・シュトゥットガルト放送交響楽団で活躍の一方、国内では珍しいコントラバスが主役となるリサイタルを精力的に展開する幣隆太朗。そんな俊英コントラバシストの「良質な室内楽を聴かせるアンサンブルを」との呼び掛けに応えて、「ルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズ」は、2013年に結成された。国内外でソリストとして活躍する白井圭(ヴァイオリン)や、2010年に難関・ミュンヘン国際コンクールで2位入賞を果たした横坂源(チェロ)を核として、フィリップ・トーンドゥル(オーボエ)、ディルク・アルトマン(クラリネット)やヴォルフガング・ヴィプフラー(ホルン)、ハンノ・ドネヴェーグ(ファゴット)らシュトゥットガルト放送響の首席級の管楽器奏者が加わり、鉄壁のアンサンブル能力に裏づけられた洗練性の一方、愉悦も湛えた音楽創りで、大きな話題に。そんな精鋭集団が、ザ・フェニックスホールのティータイムコンサート・シリーズに登場。結成のきっかけとなったベートーヴェンの七重奏曲を中心に、佳品を披露する。「気心の知れた仲間と共に、室内楽の神髄へと迫りたい」と力を込める幣。上質で贅沢なステージが、期待できそうだ。
(取材・文:寺西 肇/音楽ジャーナリスト)

楽友と奏でる 室内楽の神髄

 

 

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ルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズ
Ludwig Chamber Players
 2013年、欧州で活躍する日本人若手演奏家とシュトゥットガルト放送交響楽団のメンバーを中心に、多数の受賞歴を持つソリストたちにより結成された。18~19世紀の室内楽をレパートリーの中心に据え、近・現代音楽にも意欲的に取り組む。2013年 東京・春・音楽祭に出演、翌14年はラ・フォル・ジュルネ音楽祭での出演をはじめ、全国6都市のツアーを展開、ファンを増やしている。15年の日本ツアーでは、東京交響楽団ソロ・コンサートマスターの水谷晃が加わり、念願のシューベルトの八重奏曲 ヘ長調 D809を演奏。紀尾井ホールのほか新潟、神戸、名古屋、沖縄、長岡で公演した。

 

 

 

―「ルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズ」結成のきっかけは?
もともと、チェロの横坂源君がシュトゥットガルトに留学していて、彼が留学した少し後に、私のシュトゥットガルト放送交響楽団への入団が決定しました。それで、彼とご飯に行ったり、お酒を飲んだり、自分の大学院の卒業試験へ彼に客演してもらったり、遊びでの合わせをするうちに、「彼と何か、日本でも出来たら良いなあ」と思うようになりました。さらに、2009年に初めてサイトウ・キネン・オーケストラへ参加したとき、何かとてつもない凄い音が(笑)、練習の休憩中に前の方から聞こえてくるので、「何だろう?」と思ったら、ヴァイオリンの白井圭君が練習していたんです。その時に直感で、「室内楽を日本でやる時には、彼にお願いしよう!」と思いました。

 

 

―結果的に、弦楽器はヴィオラ以外が日本人、かたや管楽器はヨーロッパ人と言うメンバー構成になりましたね。
先ほどお話ししたように、もともと弦楽器の日本人メンバーは決定していました。そして、私が子供の頃にベルリン・フィル八重奏団のメンバーの大阪でのステージを聴いて以来、ずっと憧れの作品だった、ベートーヴェンの七重奏曲を演奏したいと思って…シュトゥットガルト放送響のメンバーの中でも、特に自分が大好きな人たちに声を掛けました。

 

 

―アンサンブル名の「ルートヴィヒ」は言うまでもなく、ベートーヴェンのファースト・ネームですね。
この名称は、初めての日本での演奏会の後に決まりました。やはりドイツ人…もちろん、日本人もですが…は、本当にベートーヴェンを敬愛していますよね。

 

 

―皆さんのベートーヴェンの七重奏曲の演奏を聴きましたが、音楽の流れがとてもいい。このアンサンブルの特長、特に音楽創りやサウンドのこだわりなどについて、教えてください。
ありがとうございます。音楽創りは、やはり議論好きのドイツ人が多く、日本人もヨーロッパ歴が長いので、遠慮なく話し合える環境がとても気に入っています。細かい所でも気になればとことん話し合う、これが凄く良い所ではないでしょうか。そして、白井圭君が、実質的に音楽的リーダーであり、指揮者だとも考えていますので、彼のアンサンブルをまとめる力も、素晴らしいと思っています。彼のウィーン節が入った歌い回しも、憎いですね(笑)。そのメロディーの下で、ドイツ流のかちっとした伴奏が、とても活きるんですよ。
―雰囲気も、とても良さそうですね。
大変仲が良いアンサンブルだと思います。打ち上げも毎回、ビールをたらふく飲みながら大盛り上がりします(笑)

 

 

―実際に合わせてみても、想像した通りの出来でしたか。
想像通り…というよりも、想像以上だったので、皆がもっと、このメンバーで続けていきたいという意思を持つようになりましたね。

 

 

―皆さんは本来、オーケストラの奏者ですね。室内楽の経験が、オーケストラでの活動にフィードバックする部分はありますか。逆に、オーケストラ奏者として独特の、室内楽における音楽創りの方法は?
メンバーの数がオーケストラよりはるかに少ないルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズとして活動した直後は、耳が音楽の細かな部分まで聴き取れる状態になっていて、オーケストラまでが室内楽的に聞こえて、「ああ、耳が洗練されたのだなあ」と凄く楽しくなります。逆に、オーケストラにおいては常に大曲を、優秀な指揮者と共に演奏しています。彼らがどのように楽曲を形創っていくかを間近に見ているので、その経験が室内楽に生かせている実感もありますね。

 

横坂

 

―コントラバス奏者にとって、室内楽とは? 特に古典作品においては、“常に存在する楽器”とは言えませんが…。
どうして出番が少ないのか、もどかしい部分は確かにありますが…(笑)。当時のコントラバスの技術レベルからすると、仕方なかったのかも。特にベートーヴェンなどは、凄く演奏の質に関して厳しかった人物だったと聞いていますから、コントラバスは、なかなか自分の理想には届かなかったのでしょうね…。でも、「もしも、現代のように、優秀な奏者が大勢いたら、どうなっていたのだろう?」といつも空想しています。ただ、コントラバスの入った室内楽にも、知られていない秀逸な作品、しかも、伴奏の役割にとどまらず、ソリスティックな役割を持った楽曲なども、実はまだたくさんあります。この辺りも、これから取り上げてゆきたいと考えていますので、コントラバス好きの皆様にも、ぜひご期待いただきたいですね。

 

 

―そもそも、幣さんがコントラバスを始めたきっかけとは?
父親がコントラバス奏者(元広島交響楽団首席奏者)で、ある日、小さいサイズのコントラバスをどこからか調達して来ました。厳しかった父から、「お前、今日からこれを弾くよな?」と問われて、思わず「はい」と答えてしまい、それから弾く事に…(笑)そして、楽器を始めた頃から、「たぶんプロになって、オーケストラの奏者として働くのだろうなあ」と、漠然と思っていました。

 

 

―ソリストとしても、精力的に活動されていますね。
きっかけは、東京で生活していた時に、特に対人関係で悩んでいて、ヨーヨー・マのCDを聴き、「音楽でこんなにも“話せる”のか」と感動したこと。当時は、人と話すのが苦手でしたが、「これほどに楽器で“話せる”なら、自分もやってみたい!」と思ったんです。私はコントラバスの、ソロ楽器としての可能性を強く感じていて、これまで地元・神戸をはじめ、大阪や東京などで10年間、リサイタルを続けて来ました。少しずつですが、認知されて来て、とても有り難い事に、今年度の神戸市文化奨励賞も頂きました。これを励みに、20年、30年と続けたいと考えています。

 

 

―コントラバスの醍醐味とは。
包容力だと思います。オーケストラや室内楽で、みんなの音を包み込む事が出来ること。そして、ソロでは、どの楽器にもない、太く人のハートへダイレクトに訴える事が出来る音、そこをとても意識していますし、気に入ってもいます。

 

 

―幣さんの、音楽家としての夢は。
音楽、そしてコントラバスを、もっと極めてみたいですね。

 

 

―ところで、ザ・フェニックスホールについては、どんな印象をお持ちでしょうか。
私自身が関西出身なので、「関西」と言えば必ず名前が挙がる、素晴らしく、美しいホールだと思っています。室内楽にも、最も適していますしね。

 

 

―ティータイム・コンサートでのプログラムは、今のところ、“十八番”のベートーヴェンの七重奏曲だけが決定していますね。
これからメンバーと話し合って、良い構成にしていきたいと思います。

管楽器

 

―ルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズはこれから、どのようにレパートリーを広げてゆくのでしょうか。
私たちは、何よりも良い室内楽を演奏するグループとして活動していきたい。七~九重奏をメインにしつつ、メンバーの中から三~五重奏を構成したり、時にはデュオ、管楽のみの三重奏など、柔軟性を持って取り組みたいと考えています。

 

 

―さらに、今後の展望は?
「現代の作品にも、もっと挑戦してみたい」とよく話し合っています。このまま仲良く、そして、どんどん音楽を深めてゆき、室内楽の神髄にもっと触れられるようになれれば、うれしいですね。