三浦一馬&ネストル・マルコーニ 公演によせて
弟子・三浦一馬とその師・マルコーニによる垂涎のデュオ!―川田 朔也
掲載日:2011年3月24日
今回彼が共演を果たす、現代最高のバンドネオン奏者で、作曲家、指揮者でもあるネストル・マルコーニは、彼の恩師である。その縁も三浦自身が結んだ。小松亮太の演奏を聴いてバンドネオンに開眼、なんとサイン会で弟子入りを志願した三浦は、2006年にマルコーニが別府アルゲリッチ音楽祭で来日することを知るや否や、苦心を重ね直接師事したい旨を打診した後、別府に乗り込んで弟子入りを許された。 そして自費制作CDの売り上げを渡航費用に充てて旅立ったアルゼンチンでは、主にマルコーニの個人レッスンを受けながら、マルコーニのタンゴ学校でのレッスンも受けた。翌2007年にデビューを果たすのみならず、マルコーニの協奏曲で、マルコーニの弟子の誰もが怯んで手を出さぬ超難曲、『タンゴス・コンチェルタンテス』の日本初演という偉業すらやってのけた。その後も折りを見てはアルゼンチンに飛んで研鑽を積んでいる三浦は、今やマルコーニが書き上げたばかり、ないしは書きかけの曲の譜面を見せられるほどの、厚い信頼を寄せられる、筆頭格の愛弟子である。
三浦は、ピアソラ流行以降に認知度は高まったとはいえ、未だマイナーと言っていい「バンドネオン」を、タンゴのみではなく、クラシックやジャズを自ら編曲して演奏することで、この楽器の秘めたる表現力の可能性を切り拓いてきた。この方向性は、ヒナステラやナディア・ブーランジェの教えを乞うたピアソラや、作曲法や対位法を学ぶピアノ奏者からバンドネオン奏者となったマルコーニと極めて似通ったものだ。
ジャンルを超えた作編曲の能力を、圧倒的超絶技巧を駆使して遺憾なく発揮し、若き日から頭角を現したマルコーニと、ヴィヴァルディ=バッハのオルガン協奏曲BWV593やビゼー=ホロヴィッツの『カルメン幻想曲』、近代のバルトークにガーシュウィンなどの編曲で、常に最大級のハードルを自らに課して乗り越えようとする三浦。マルコーニは、地球の裏側からやってきた三浦に、若き日の己の似姿を見出したのではなかろうか。 今回の演奏会では、彼らのデュオとソロとが演奏される。マルコーニの自作自演では「親愛なる友、ロベルト・ブスネッリへ」捧げたソロ曲『ロブスタンゴ』の世界初演はもちろんのこと、ピアソラの傑作を詰め込んだ豪華なメドレーも楽しみだ。もうひとつ、彼らのデュオ録音はまだ存在しないため、いきなり生演奏を聴けるということも、今回の目玉である。
現代バンドネオンの巨匠マルコーニと未来の巨匠三浦。この師弟の運命が音楽として絡み合う場に立ち会える今回の演奏会は、彼らにとっても聴き手それぞれにとっても、幸福な記憶として刻み込まれるに違いない。
川田朔也(かわだ さくや) 1971年東京生まれ。物心つかないころから音楽に興味を示し、一日中NHK-FMをBGMに育つ。3歳から鍵盤楽器を始める。大学院修士課程までフランス文学を専攻し、出版社でのフランス語教科書の編集、洋書代理店勤務などを経て音楽評論活動を開始。現在は主に国内盤CDのライナーノーツ執筆、およびフランス語のライナーノーツ翻訳などを行っている。
【重要】「三浦一馬&ネストル・マルコーニ バンドネオン ドリーム・デュオ」公演内容変更
5月17日(火)に開催を予定しておりました「三浦一馬&ネストル・マルコーニ バンドネオン ドリーム・デュオ」公演は、東日本大震災の影響によりマルコーニ氏が来日を取り止めたため、当初予定の公演が出来なくなりました。誠に申し訳ございません。ザ・フェニックスホールはこの公演を、バンドネオン奏者の・三浦一馬を軸とした同震災支援のチャリティー公演に変更し同日程で、開催致します。また、ご希望の方には払い戻しを致します。ご来聴や払い戻し手続きについてはこちらをご覧ください。
ネストル・マルコーニからのメッセージ
Message to my fans:
I´m deeply concerned at the news of the devastating earthquake which has struck Japan. I would like to express my sincere solidarity and condolences to the Japanese people.
I was very disappointed to don´t go to Japan. I want to take a moment to thank all of you who love tango. I hope we can meet very soon, and enjoy the music together other time.
Best regards,
Nestor Marconi
私は今、日本を襲ったこの衝撃的な地震のニュースにとても心を痛めています。心から哀悼とお悔やみを申し上げます。
今回、日本へ行くことができないことをとても残念に思っています。タンゴを愛するすべての方々へ感謝の意を捧げます。
できるだけ早いうちに、また皆さんとともに音楽を楽しむことができる日が来ることを、心から願っています。
ネストル・マルコーニ
- 5月17日(火)19:30 三浦一馬(バンドネオン) ピアソラへのオマージュ with 京都フィルハーモニー室内合奏団メンバー