「ヴェーセン」ギタリスト ローゲル・タルロートさんインタビュー

スウェーデンの“新たなトラッド”紡ぐ

掲載日:2009年4月17日


「ヴェーセン」ギタリスト ローゲル・タルロートさん

4月28日 フェニックスホールに登場

北欧トラッド音楽シーンをリードするスウェーデンの「ヴェーセン」が4月28日(火)夜、ザ・フェニックスホールの舞台に立つ。ギターのローゲル・タルロート、同国の伝統楽器ニッケルハルパのウーロフ・ヨハンソン、そしてヴィオラのミカエル・マリーンでつくる異色のトリオ。素朴で温かい伝統音楽をベースにおきながら、透明感溢れる独自のサウンドでジャズやクラシックのファンも惹き付けるフォークバンドだ。結成から20年、ユニークなサウンドの秘密を探ろうとアメリカツアー中のメンバーに質問を投げかけたところ、タルロートが応えてくれた。

(構成:ザ・フェニックスホール)

「クールなライヴ」が一番

ザ・フェニックスホール(以下PH) メンバーの皆さんがそれぞれ影響を受けた音楽は何ですか。

ローゲル・タルロート(以下RT) ミカエルが挙げたのはクラシックの分野、中でも20世紀の現代音楽を代表する作曲家バルトークやリゲティの室内楽。それに伝統的なフィドル音楽。ウーロフも、伝統的なニッケルハルパの大御所エリック・ザールストロムに大きな影響を受けてる。僕は、ビートルズをはじめ、数多くのポピュラーバンドを長い間聴いてきた。それ以外にもスカンジナヴィア半島の伝統的なフィドル音楽もたくさん取り入れてきた。こんな具合で、3人が影響を受けた音楽はバラバラなんだけど「伝統」から学んだ点は共通してる。

PH 曲は、どんな風にして作るんです?

RT 本当のところ、自分じゃよく分からないんだけど、ミカエルに言わせると、何か「テーマ」みたいな断片がふわっと僕の頭に浮かんで来て、それをどんどん広げていって作曲しているらしい。でも、何かあらかじめ目的のある曲が必要な時は、それに向けてコツコツ自分で生み出す、って時もある。

PH 3人がクリエートしてるのはスウェーデン拠点の、「民族の」音楽なんでしょうか。「国際的」「多重文化的」「世界的」、、、なんて言えば良いんでしょうね。ブラジルのサンバやショーロみたいなクレオール音楽? それとも21世紀が生んだ「混血音楽」かな。。。

RT それ全部に、当てはまるんじゃないかな。これまで世界中の、本当にいろんな場所で演奏を重ねてきて思うのは、演奏の最中、自分たちの中に自然に湧き出てくるのは、ここ何年かの間に自分たちの中に蓄積されてきたものだってこと。あちこち旅して新しい人に出会い、セッションして新しいアイデアを自分たちの体に注ぎ込んできたからね。ただ「ベース」は変わらない。自分たち自身の音楽を生み出したくて始めた20年前。あの頃のままなんだ。

PH これだけインターネットが発達し、世界中の音楽が行き交うようになってくると、一体どんな音楽が求められるようになるんでしょう。

RT どんな世の中でも、ファンはクールなライヴ演奏を待ち望んでる。それは絶対に途絶えないと思うよ。僕たちが創り出したいのも、正にそれ。

PH ヴェーセンとして活動を始めた当初、スウェーデンの伝統音楽に取り組んでいた先輩たちが、暫く消極的な反応を示したのはなぜなんでしょう?

RT 思うに、僕のギターの弾き方がそれまでのプレーヤーとは大きく違って、「斬新」だったのが影響してたんじゃないかな。でも、「反応」って言ったって、実はそんなには無かったんだよ。どちらにしても、僕らの行き方はすぐ、認めてもらえた。スウェーデンの伝統音楽が生き残り、発展していくのには、とっても良い道なんだってね。

PH なるほど。ところでツアーで演奏していると、国や町によって、聴衆の反応ってかなり違うもんですか。

RT いま、ブルーグラスのマイク・マーシャル、ダロル・アンガーと一緒にツアーしてるんだけど、ニューヨークと東京の違いは、はっきりしてる。アメリカのファンは、僕らの演奏が良い時は大体、陽気だし、見るからに楽しそうにしてる。がちゃがちゃ騒がしいことさえある。でも、日本は違うね。一生懸命、集中して聴いてくれる。コンサートの最中はもちろん、ステージが終わってからも、僕らの音楽が、ホントに良いんだってことを、分かってくれる。嬉しいね。

PH フェニックスでは、どんな曲を取り上げます?

RT まず、最新のアルバムから何曲か。それとたった今、アメリカツアーでも取り上げてる曲を軸に組むつもり。きれいなホールと、フレンドリーな大阪の聴衆に会えるのを、楽しみにしてるよ!

2009年4月 協力:THE MUSIC PLANT

roger

ローゲル・タルロート(ギター)

13歳の頃からギターをはじめ、ギターとフィドルの名手イヴェール・タルロートに師事。エレブルの音楽大学を卒業後、80年代からフォークシーンを中心に活動。独自のチューニング方法と演奏スタイルで、スカンジナビア半島でもっとも人気のあるギタリストとしての地位を確立した。アンビョルグ・リーエン、アッレ・メッレル、ソフィア・カールソンなど、多くのバンドで要となって活躍中。また作曲家としても優れ、作品はアイルランドやスコットランドの有名ミュージシャンたちが好んでカバーしている。

ヴェーセン(Väsen)

1989年、スウェーデンを代表する民族楽器の一つ、ニッケルハルパ奏者のウーロフ・ヨハンソン、ヴィオラのミカエル・マリーン、そしてギターのローゲル・タルロートの3人によって結成。当初、ウーロフのソロ・デビュー作のタイトルだった「ヴェーセン」(スウェーデン語で「本質」「精神」「喧噪」という意味)が、のちに正式のバンド名となる。以来、計13枚のアルバムをリリース(ベスト盤を含む)。97年発表の「ヴェルデンス・ヴェーセン」はスウェーデンのグラミー賞を受賞。欧米ツアーも盛んに行い、「ワシントンポスト」紙ほか世界中のマスコミから絶賛を浴びている。

 
 <曲目>
 
 ハンガリーでの1時間(ミカエル・マリーン/ローゲル・タルロート)
 白樺丘のポルスカ(ウーロフ・ヨハンソン)
 ハッセ(ミカエル・マリーン)
 ヴェーセン・ストリート(ウーロフ・ヨハンソン)
 アスコ・パスコ(ウーロフ・ヨハンソン)
 ヨウコ(ミカエル・マリーン)
 カール・リネウスのポロネーズ(伝統曲)
 リネウス・ロング・ダンス(ミカエル・マリーン)
 スクラップ・ランドのショッティス(ミカエル・マリーン)
 ロブのポルスカ(ウーロフ・ヨハンソン)
 植物学者(ミカエル・マリーン)
 ジョセフィンのワルツ(ローゲル・タルロート)
 キャプテン・キャプシール(ミカエル・マリーン)
 
 20:50終演予定 休憩はありません