ストリングラフィ発案 水嶋一江さんインタビュー
掲載日:2002年3月1日
2002年度ティータイムコンサートのトップバッターを飾る「水嶋一江&ストリングラフィ・アンサンブル」の突撃インタビューを行った。楽器の素材は糸と紙コップで、子供の頃よく遊んだ糸電話のようなものと説明されたが、そのようなもので音楽が奏でられるものだろうかと半信半疑で訪問した。 スタジオの場所は東京京王沿線の閑静な住宅街にあり、ドアを開けてまずびっくりしたのは部屋中糸と紙コップが張り巡らされていた。早速演奏していただいたが、これまた不思議、音が糸からではなく紙コップから出ているではないか。そこで早速インタビュー開始。
―――楽器の構造をお願いします。
絹糸と紙コップで出来た楽器で、一見糸電話のように見えますが、絹糸の両端に紙コップを取付けて、絹糸の部分を手で擦ったり、弾いたりすると弦楽器のような音がします。弾き方を工夫するとパーカッションの鼓のように聞こえたり、あと自然のサウンドで風の音とか、小鳥の鳴き声、雨だれとかいったイメージの音を出すことができます。
―――このような楽器は他にあるのでしょうか?
無いでしょうね。このように弦楽器なのですが、これだけのスペース全体を大きな楽器にしてその都度世界に一個しかない楽器を作って演奏するというスタイルは恐らく他には無いと思います。
―――ではどうしてこの楽器を作ろうと思われたのですか?
直接的には1992年山形県の月山という山の麓でパフォーマンスフェスティバルがあり、そこでは野外の自然のなかでダンスを踊ったり、演奏をしたりする催しでありました。そこで森の中で木と木の間に沢山の糸を張って大きなハープにすれば素敵かなと思ったのがきっかけです。
―――その時のイメージと現在とではどうですか??
一番大きな違いはドレミファソラシドがあるかどうかです。最初はいろんな音が出るし、意外と大きな音であり、演奏というよりはパフォーマンスといったほうが近いのですがピーとかキーといった効果音を出していたのが初めの4年間でした。
これをご覧になった方が、例えばビートルズのイエスタディとかいった有名な曲が弾けるのですかというリクエストがあり、演奏してみると意外とおもしろかった。美術でいうインスタレーション的な位置付けであったが、1996年からは楽器としての調弦をして長音階、半音階、また、音域を広げて、ベース、アルト、ソプラノというふうに楽器としての広がりを持たせた。
―――糸はなぜ絹糸なのですか。
最初は木綿、絹、テグス(釣り糸)といろいろ取り混ぜ、また、太さもいろいろありました。音大時代に作曲をしていた時、ヴァイオリンを少し弾いていたので松脂を付ければよいだろうと思った。
お琴や三味線など邦楽器では絹糸が用いられているように、音がきれいで伸縮性があり丈夫であることが、いろいろ取り混ぜてやっていた時に判った。太さについては、細いと切れやすいので、市販されている絹糸で一番太い「穴糸」を使うようになった。また、絹糸がよいのは、蚕の口が8の字(無限大のマーク)になっており繊維に微妙な凹凸があり、擦ったときにきれいな音色がでるのです。
―――アンサンブルになったのは何故、またその苦労は。
パフォーマンスではなく曲を演奏するとなると、ソロよりもアンサンブルの方が音楽的な広がりがあります。そこでメンバーを募って1996年にストリングラフィ・アンサンブルを結成しました。何といっても一番の苦労は演奏者を育てることです。ストリングラフィを教えるといっても、お手本があるわけではありませんから、奏法・身体の動き・楽器制作まで一から創り上げながら前へ進んで行かなくてはなりません。しかし、新しい発想もこの教えることから生まれてくることが多いのです。メンバーは音楽を専門的に学ぶのはストリングラフィが初めて、という人がほとんどです。音楽の基礎訓練では大変な部分も多い反面、既成概念に捕らわれず、自由な発想で新しい表現を生み出す可能性も持っています。他の楽器と違って、ストリングラフィでは「楽器」自体も常に発展途上にありますので、表現したい内容によって、楽器の本数が増えたり、張り方を変えたりと変化を繰り返します。また踊るように身体全体を大きく使って音楽を表現するスタイルなども、楽器を習ったことがないメンバーに、音楽の根本から問い直し伝授する作業の中から生まれてきているのだと思います。
―――それでは4月26日ザ・フェニックスホールでの演奏について抱負を語って下さい。
昨年、ホールを訪問させていただき、素敵なホールであること、ステージを既存の場所でなく客席を2分するように設定していただき、お客様に取り囲まれて演奏できるのでイマジネーションを刺激されます。今回のコンサートのためにオリジナル曲も作曲する予定です。これはザ・フェニックスホールのイメージにインスピレーションを得た曲です。衣装も新しくしてお客様と共に満足できる演奏を行いたいと思っております。
≪活動の歩み≫
みずしま・かずえ 1964年東京生まれ。桐朋学園大学作曲科卒業。
89年コンピュータ音楽を学ぶため渡米。 91年カリフォルニア大学作曲家修士課程修了。帰国後、数多くのアコースティックな実験的現代音楽の作品を発表。そして、92年オリジナル楽器「ストリングラフィ」を考案、八重樫みどりと共にスタジオ・イヴを結成。以来、「ストリングラフィ」を軸とした舞台作品を制作していたが、96年から「ストリングラフィアンサンブル」を結成、複数の奏者による演奏活動を行う。