Prime Interview 新倉 瞳さん

ザ・フェニックスホール初登場!
カメラータ・チューリッヒのソロ首席チェロ奏者

掲載日:2017年1年6日

2006年にCDデビューを果たしてから11年。チェリストの新倉瞳は、現在スイスのチューリッヒを拠点に活動し、さまざまな音楽を通じて視野を広げている。ソリストとしての演奏および研鑽のみならず、室内楽を楽しみ、オーケストラ(カメラータ・チューリッヒ)のソロ首席奏者としても活動。さらには友人たちと共にクレズマー(東ヨーロッパにおけるユダヤの音楽)のバンドまで結成するなど、まさに縦横無尽の演奏活動を行っているのだ。再び日本での演奏機会が増えてきた中、2017年4月にはザ・フェニックスホールに初登場。しかもこれが、大阪における初の本格的なリサイタルだというから聴き逃せない。デュオのパートナーとして共演するピアニストは、シューベルトの連続演奏会など意欲的なプログラムで高い評価を得ている佐藤卓史。1回、また1回と共演を重ね、互いの音楽性を徐々に理解してきた2人が、深みのあるラフマニノフやブラームスなどをホールの空間に響かせる。
(取材・文:オヤマダアツシ/音楽ライター)

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欧州で深化 確信もつ演奏

 

 

 

2006年、まだ桐朋学園大学の学生だった頃にCDデビューをされて11年目になりますが、2010年からは活動の拠点を日本からスイスへと移されています。
―幸運なことに何枚かのCDを作ることができ、多くの場所でコンサートをすることができました。素晴らしい経験でしたが、その一方で迷いもあったため自分に自信がもてず、無理に肩肘を張って自分をアピールしていたこともあったのでしょうね。そうした自分を変えるために日本を離れ、スイスのバーゼル音楽院で学ぶことを選びましたが、本当に大きな転換点となりました。チェロの演奏に関してもそれまで知らずにいたことがたくさんあり、音楽が言葉をもっていることに気づいたり、それまでは苦手だった作曲家や曲への意識が変わったりするなど、自分の感覚がどんどんオープンになり、本来の自分の素の姿に戻っていったのです。また、バロック音楽を学ぶことでジャズなどにも通じる即興の面白さがわかるなど、新しい音楽への興味をかき立てられたことも事実です。  

 

 

その一方、クレズマーのバンドでもチェロを演奏しているとうかがいました。とても意外であり、新鮮な驚きもありました。 

―チューリッヒでは「ハイベ・バラガン(Cheibe Balagan)」というバンドを組んで演奏していますが、チェロを弾きながら歌ったりするなど、以前の私では考えられなかったことまで楽しんでいます。実は一度、日本のレストランバーで演奏したこともあるのですが、CD発売記念ライヴのためにバンドが来日する予定ですので、関西でのライヴが実現するかもしれません。クラシックとはまったくジャンルの異なる活動ですけれど、クレズマーに出会ってからユダヤの歴史や音楽についての知識も増え、それがブルッフの「コル・ニドライ」などユダヤ色の強いクラシック音楽の演奏に役立っているのです。シナゴーグ(ユダヤ教における会堂)で歌われていた旋律にインスピレーションを受けて作られた曲ですから、イディッシュ語が音楽に反映されており、そうした方向から演奏を構築できるようになりました。自分のリサイタルなどでも、許されればアンコールでそういった曲を演奏し、チェロを弾きながら歌うこともあります。

 

 

今回のリサイタルでは、シューマン、ブラームス、ラフマニノフの作品が演奏されます。2015年12月に東京の浜離宮朝日ホールで行われた、5年ぶりの東京でのリサイタルでも、同様のソナタを佐藤卓史さんと演奏されました。  

―今回演奏する3曲は、とてもシンプルに「いま、自分が弾きたい曲」です。ブラームスのチェロソナタ第1番は学生時代から演奏してきましたので自分に近い存在ですし、ラフマニノフは中学生の頃にピアノ協奏曲第2番にはまって、いろいろな演奏を聴き比べたくらい好きな作曲家です。ただどちらの曲も、これまで師事した先生方から「あなたの音楽性と曲の性格がとても近いので、きっとすぐに弾けてしまうでしょうから、あえて勉強する必要がない」と言われ、理解を深めることができなかった曲でもありました。特にラフマニノフは自分が好きであるにもかかわらず長いこと封印してしまい、2015年12月のリサイタルでやっと弾くことができたのです。スイスでいろいろなことを学ぶ中、楽譜の中に作曲家自身の感情を見出すことができるようになり、私自身が本能のままに演奏する音楽とあまり違わないことに気がつきました。スイスに留学した当初は自分の演奏に自信がもてませんでしたけれど、時がたつにつれ「やっぱりあれでよかったんだ」ということを実感できたのです。だからこそ、ずっと弾けなかったラフマニノフを弾きたいという気持ちになれたのだと思います。

 

 

今回のコンサートで、ラフマニノフのチェロソナタを初めて聴く方もいらっしゃるでしょうね。 
―好きになっていただけたらうれしいですね。曲は「疑問」を感じさせるような第1楽章に始まり、荒々しい中にも夢を見ているような第2楽章、想い出に浸るような第3楽章と続き、第4楽章では次への扉が開かれています。希望にあふれた最後ですから、気分よく弾き終えることができる作品ですね。ラフマニノフ自身がピアニストでしたから、ピアノ・パートには愛があふれていますし、チェロがきちんと弾けていないと負けてしまうほどなのです。とてもチャレンジしがいのある作品ですし、弾くたびに新しい発見もありますね。今回のリサイタルでは、ザ・フェニックスホールの音響やお客様の力もお借りして、きっと「その日だけの音楽」が生まれると思っています。

 

 

シューマン作曲による「5つの民謡風の小品」と、ブラームスのチェロソナタ第1番も、チェロの名曲として演奏される機会が多い作品です。

―ブラームスもラフマニノフ同様、先生方から「あなたなら1番は弾けるから、2番を勉強したほうがいい」と言われてきた作品なのですが、だからこそ本能のままに演奏してみると自分なりの答えが見つかるのではないかと思ってきました。2015年のリサイタルで久しぶりに演奏し、その確信がもてたところですので、まだまだ弾き込んでいきたい作品です。シューマンは逆に感覚的に弾いてはいけない作品であり、メロディを追わず、常にハーモニーや曲の構造を考えていないとたちまち迷ってしまいます。これまで弾く機会がほとんどなかった「5つの民謡風の小品」は、私にとってまだまだ新鮮な気分で演奏できる曲ですし、初めて弾くホールの空間やお客様との距離を縮めたいと思っています。

 

 

共演を重ねている佐藤卓史さんとのデュオも楽しみです。 
―ご一緒することで新しい自分が発見できるピアニストです。初めてご一緒したのが神尾真由子さん(ヴァイオリニスト)との室内楽のコンサートで、実は2015年のリサイタルのときは2回目の共演でした。そのときも2人の音楽がいい感じにぶつかり合って素晴らしい結果になりましたし、その上でまだまだ新しいことができそうだと思えたのです。佐藤さんとご一緒することでシューマンへの理解が深まりそうですし、シューベルトにはとても造詣が深い方ですから、私も「アルペジオーネ・ソナタ」にあらためてチャレンジしたくなりました。今回は2015年のリサイタルとメーンは同じプログラムですが、何度も弾き込んで深めていきたい作品ばかりだねというお話しをさせていただいていますから、さらに新しくなった演奏を、ザ・フェニックスホールのお客様にはお届けできると思っています。