伊東信宏さん(ホール音楽アドヴァイザー)について

伊東信宏(いとう・のぶひろ) 音楽研究家

 1960年京都生まれ。大阪大学文学部卒業、同大学院博士課程単位取得退学。リスト音楽院、ハンガリー科学アカデミー音楽学研究所などに留学。93年より大阪教育大学助教授、2004年より大阪大学文学研究科助教授、07年より同准教授、10年より同教授。文学博士(大阪大学)。主な著書に『バルトーク』(中公新書、1997年、吉田秀和賞受賞)、『ハイドンのエステルハージ・ソナタを読む』(春秋社、2003年)。『中東欧音楽の回路 ― ロマ・クレズマー・20世紀の前衛』(岩波書店、2009年、サントリー学芸賞、木村重信民族藝術学会賞受賞)。共訳書にB.バルトーク著『ハンガリー民謡』(間宮芳生と共訳、全音楽譜、1995年)。論文に「シャガールのヌーシュ叔父さんはどんなヴァイオリンを弾いたか」(『ExMusica』第4号、2001年)、「民族の音楽/音楽の民族:コダーイ、クンデラ、そしてモルドヴァのファンファーラ」(大津留厚編『近代ヨーロッパの探求:民族』、ミネルヴァ書房、2003年)。主な研究テーマは、中・東欧の音楽全般に関する歴史的研究。20世紀ハンガリーの作曲家バルトークの作品に関する研究のほか、ハンガリーやルーマニアの民俗音楽、大衆音楽、旧ハプスブルク帝国史の中でのオペレッタや、ハイドンの作品についても調査・研究を行っている。ザ・フェニックスホールでは2002年度からレクチャーコンサートシリーズの企画・構成を担当。これまでに「ピアノはいつピアノになったか?」(2002年度~04年度 全8回)をはじめ、大阪・いずみホールの専属楽団「いずみシンフォニエッタ大阪」の定期公演とも連携した「20世紀音楽」(2006年度~08年度 全6回)など、合計19公演に携わっている。

小さくても重要な発信源に

伊東信宏

  「音楽」は現代では単なる「息抜き」と見られがちです。家事を片づけてから、あるいは会社の帰りに、楽しい気楽な音楽を聴いてリフレッシュ ― 確かに音楽にはそんな役割もあるかもしれません。けれども、私がザ・フェニックスホールでの演奏会を企画する際に考えているのは、できればそのもう一歩先の体験ができる場を提供したい、ということです。
演奏があまりにも圧倒的で、帰り道の見慣れた風景が全然別のものに見えてきてしまう、あるいはよく知っているつもりでいた作品が、聴いたこともない新しい音楽として聞こえて唖然とさせられる、さらには音楽をその背景ごと理解することで、その作品が書かれた時代の光景が現代の街並に重なって見えてくる、等々。音楽は、単なる息抜きである以上に、人間の物の見方や感じ方を一変させてしまうほどの力をもった体験であるはずです。これまでにも、そんな演奏会を少なくともいくつかは提供できた、と考えていますが、できれば、そういう企画を積み重ねることで、このザ・フェニックスホールという小さな音楽ホールが、他のどこにも真似のできない存在感のある発信源となっていけるように、と願っています。