Prime Interview 古部賢一さん&鈴木大介さん

トップ奏者たちによる極上の室内楽
古部賢一さん、鈴木大介さん   

掲載日:2018年5月15日

オーボエとギターという、ちょっと珍しい組み合わせで演奏活動を続ける古部賢一さんと鈴木大介さん。二人の演奏プログラムは非常に多彩で、クラシック音楽はもちろんのこと、映画音楽やボサノバなどあらゆるジャンルを軽やかに横断し、独自の世界を創りだしています。誰もが知るような有名曲も、ちょっとしたひねりが加えられることで随分と印象が変わります。そうした音楽の可能性や多様性について、難しく考えるのではなく、できるだけ軽やかに実現しようとしているのがこのデュオの特徴ではないでしょうか。インタビューではデュオ結成のいきさつや、選曲の妙など、二人の人柄や音楽的な背景に触れながらデュオならではの魅力についてお聞きしました。

(取材・文:宮地泰史/あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)

 

新しくて耳馴染みのある音楽を

 

ギターとオーボエのデュオは珍しいと思うのですが、二人で始められたいきさつは?

 

 鈴木  古部さんとは昔から知りあいというわけではなかったのですが、1990年代の後半、同じ舞台で良く会うようになったんです。例えば、武満徹さんの特集コンサートなどでご一緒したり、あるホールのシリーズ企画で同時にラインナップされたりと、直接一緒に演奏するわけではないんですが、近くにいるなぁという感じでした。その後、津田ホール(※1)のプロデューサーに声を掛けられ、私のリサイタルのゲストとして古部さんに来ていただいたんです。その時ですね。あれもやれるこれもやれると意気投合しまして、ほぼデュオとしてのリサイタルになったんです。それから少しずつ、他の所でもデュオで呼ばれるようになっていったんです。   

 

古部  よく「一緒にやれたらいいね」と色んなアーティストと言葉を交わすのですが、その場で終わりという事も良くあるんですよね。そういう意味では、このデュオは色んな人からの後押しや、縁があったんだなぁと思います。それと、これも偶然なんですが1999年度の出光音楽賞(※2)を同時に受賞したのも大きかったかもしれません。その時の披露演奏も本来ならソリストとしてコンチェルトを演奏したりするんですが、私たちはデュオで演奏したんですよね。新曲を委嘱して。そうした色々な積み重ねが今を作っているのだと思います。

 

お二人にとってこのデュオの魅力とは何ですか?

 

鈴木  皆さんご存じのとおり、オーボエとギターのデュオはあまりないんですが、海外では例があったりします。例えばロマン派の時代に生きたナポレオン・コスト(※3)という作曲家は、オーボエとギターの曲をいくつか書いています。なので、この組み合わせが全くなかったというわけではないんです。ただ、この楽器の組み合わせが抜群に相性がいいかというとそうでもなくて、一般的にはギターだとフルートの方が音量とか音域の関係から組みやすいです。古部さんのオーボエは、オーケストラのようなダイナミックな演奏から繊細な音まで非常に幅広く、音色も多彩です。そこがとても素晴らしく、オーボエとなると古部さんじゃないと駄目なんじゃないかと思います。私自身、オーボエとギターという楽器の組み合わせではなく、古部さんと、デュオ演奏しているという感覚です。

 

古部  実を言うと私は、ギターと一緒に演奏したいと昔から思っていたんです。ピアノとのデュオとは違う何かがあると思ってたんですが、周りにクラシック・ギターをちゃんと弾ける人がいなかったんですよね。学生当時は。その当時、CDで2枚ほど海外のオーボエとギターのデュオ作品を持っていたんですが全然楽しめなくて(笑)。もっと何か面白いことが出来るんじゃないかと思っていたんです。だから鈴木君と初めて合わせてみた時、しっくりきたというか、とても面白いと感じたんですよね。

 

ギターとオーボエというと、同じクラシック音楽でもかなり違いがあると思うのですが、お互いの音楽性についてどう思いますか?

 

古部  鈴木君とは、それこそ王道のクラシック音楽以外のところで近しいところがあったんだと思うんです。実は私、東京藝術大学の学生の時はサンバ部に在籍していたんです。浅草サンバカーニバルにも二度ほど出演しています。藝大のサンバ部は結構凄くて、パーカッションの人がそのままプロ奏者になったり、クラシックの声楽を勉強している人がラテンのプロ歌手になったり、本格的だったんです。クラシック音楽にはない独特のノリや拍感があるんですが、その経験がこのデュオで活かされているというのはありますね。そもそも私は、音楽のジャンルを越える時に自分の中で大きくスイッチを切り替えなければならないということはありません。クラシック音楽もクラシック以外もむしろ地続きというか同じ感覚なんです。だから、特にクラシック以外の音楽について鈴木君から教わることは多いです。

 

鈴木  私としては古部さんのオーケストラや室内楽での経験に基づくアンサンブルの基礎や、奏者とのコミュニケーションの仕方などは随分勉強させていただきました。私は若い時に室内楽に呼ばれることが多かったんですが、その時随分苦労したんです。純粋なクラシック音楽畑の人は、小さい頃からアンサンブルの経験があるので自然にできちゃうんですが、ギターは基本的に一人で演奏する楽器で殆どアンサンブルや室内楽をやりません。だから室内楽に呼ばれてもわからないことがあったりするんですが、聞いちゃいけないというか、なかなか聞けなかったんです。古部さんとご一緒するようになって、その辺りの疑問に答えをもらえたり、新しい発見があったり、色々勉強させてもらってます。

 

このデュオのコンセプトを教えてください。

 

古部  このデュオの始まりがホールプロデューサーの画策みたいなものだったので、コンセプトがしっかりあったわけではありません。当初は演奏できそうな曲の楽譜を片っ端から探したり、作曲家に新曲を委嘱したり、このデュオでできる曲を積極的に模索しました。

 

鈴木  初めの頃は古部さんがおっしゃるとおり割とがむしゃらだったんですが、何度もコンサートを重ねるうちに見えてきたコンセプトがあります。それは、「新しくて耳馴染みのある音楽を楽しんで欲しい」という想いです。知らない曲をかしこまって聞いていただくより、「あっ、これ知っているけどなんか違う」みたいな事を感じてもらえたらと思っています。私たちは、ジャンルの隔たりなく、クラシック、映画音楽、そしてポピュラー音楽まで様々な音楽を演奏しますが、単に耳馴染みの良いものだけを演奏しているのではなく、このデュオならではの音楽を追及しています。是非、そこを楽しんでほしいですね。

 

最後にザ・フェニックスホールのお客様に向けて一言。

 

古部  私は大阪にしょっちゅう来ていますが、ザ・フェニックスホールで演奏するのは久しぶりです。オーケストラとは違う室内楽の響きと、オーボエとギターという珍しい組み合わせでの可能性を楽しんで頂けたらと思っています。

 

鈴木  私は事務所に入って初めてのリサイタルがザ・フェニックスホールなんですよ。だからザ・フェニックスホールに呼ばれると身が引き締まるというか、原点回帰するような気持ちになります。お客さんから、「オーボエとギターって合うんですね」と言われるのは50点だと思っています。それはまだ過程というか。私たちとしては、クラシック音楽ともポピュラー音楽とも違う、この二人ならではの音楽世界を楽しんでもらえたら嬉しいです。是非、ザ・フェニックスホールでお会いしましょう。

 

※1 津田ホール 東京の千駄ヶ谷に存在した音楽ホール。現在は閉館。
※2出光音楽賞 将来有望な若手音楽家に贈られる賞。
※3ナポレオン・コスト(1805-1883) フランスのギタリスト・作曲家。