Prime Interview アルベナ・ダナイローヴァ

ウィーン・フィル史上初の女性コンサートマスター
アルベナ・ダナイローヴァさん

掲載日:2018年1月19日

世界最高峰のオーケストラのひとつ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター、アルベナ・ダナイローヴァが、ザ・フェニックスホールにソロで登場!新緑薫る5月に、関西初リサイタルを開く。ベートーヴェン、ブラームスをはじめ、自ら選んだヴァイオリン・ソロ4曲によるプログラムは、華やかムードで聴き応えもたっぷりだ。2008年にウィーン国立歌劇場管弦楽団初の、そして11年からウィーン・フィル初の、女性コンサートマスターに就任して以来、楽団をまとめて新たな歴史を刻みながら、世界のクラシックファンの期待に応えてきた。併行して室内楽にも積極的に取り組み、訪日演奏も回を重ねている。ノーブルな華やかさをまといながら、特有の軽やかさで叙情を豊かに歌うウィーン・フィルのサウンドが、彼女のソロ演奏ではいったいどのような妙味となって醸し出されるのだろうか。プログラムに寄せる思い、ウィーン・フィルでの今日まで、自身の半生などについて伺った。

(取材・文:原納暢子/音楽ジャーナリスト)

 

ヴァイオリン・ソロを、しなやかに、華やかに! 

 

 

 

とても素晴らしいプログラムですね。これだけで「無人島で楽しく暮らせそう」です。心華やぐこれらの名曲を選んだ理由やプログラムの意図を教えて下さい。

選曲についてお褒めいただき、ありがとうございます。ベートーヴェン(1770~1827)とブラームス(1833~97)の組み合わせは、いつも「刺激的」と思っています。「過去」が「未来」の中でどのように経過していくのかがわかるからです。古典派の最後にして偉大な作曲家の一人であるベートーヴェンの音楽が、ロマン派の時代にどんな変化を遂げるのか、しかもブラームスという特別な古典的ロマン派の中でどのように発展していくかを知ることができます。「ベートーヴェンなくしてブラームスやワーグナー(1813~83)は存在し得なかった」というたくさんの証拠があるんですよ。

 

 

ベートーヴェンのヴァイオリンソナタといえば、第5番「春」や第9番「クロイツェル」などが定番で、演奏に触れる機会も多いので、知る人ぞ知る傑作の第3番が聴けるとは、貴重かつ新鮮! しかも、ブラームスのロマンチックな第1番との組み合わせで、とてもワクワクします。

私がベートーヴェンのヴァイオリンソナタ 第3番が好きなのは、「妙趣」「優美さ」そして「強い個性」を持ち合わせた作品だからです。一方、ブラームスのヴァイオリンソナタ 第1番は、その叙情的なメロディーと独特な感覚を覚える哀愁に惹かれます。ブラームスは、初めてのイタリア旅行後に書いた友人への手紙の中で、このソナタについて触れています。それは春も終わりかけた初夏の頃のこと…、そんな季節に自然が与えてくれる感情が、この曲の魅力です。

 

 

イタリア旅行の翌1879年夏に曲が完成していますが、その半年ほど前に、シューマン夫妻の末っ子で、可愛がっていた詩人のフェリックス(1854~79)が亡くなっています。微妙な時期でもありますね。アルベナさんは、ものごころついた頃からどちらの曲も弾いて来られたと思います。忘れられないエピソードや思い出などは?

ベートーヴェンは私の好きな作曲家の一人で、この作品を演奏するのに適した時期やスタイルを見つけるのは難しくはありませんでした。でも、ブラームスには少し時間が必要でした。この作品がいつどのように作曲されたかといった情報を集め、コンサートを重ねて、自分の解釈に役立ててきました。

 

 

サン=サーンス(1835~1921)のカプリチオーソは、楽団と演奏するときとでは、どういう違いがありますか。例えば、ピアノのニュアンスが単調だと聴き手も気持ちが乗りません。互いにムードを醸しつつ演奏されてこそ、聴き手も心地よくエキゾチックな世界に浸れる感じです。

オーケストラとピアノのどちらと共演する時でも「自由に演奏すること」が私にとっての挑戦です。そのためには、もちろん素晴らしいオーケストラとピアニストが必要です。

 

 

4曲いずれもヴァイオリンとピアノが互角に呼応し、デュオ的に演奏してこそ聴き手の心に響く曲ばかりですね。ベートーヴェンは楽章ごとに役割のバリエーションが柔軟に変化しますし、フランク(1822~90)のヴァイオリンソナタも、ヴァイオリンが朗々と歌えるピアノでないと。ピアニストの加藤洋之さんは、ライナー・キュッヒルさんがコンサートマスターの頃からウィーン・フィルの人たちと室内楽演奏を重ねて早20年。アルベナさんとも共演していますが、彼の演奏の特長や好きなところなどを聞かせてください。

加藤さんは幅広いレパートリーを持ち、室内楽の経験が豊富なだけでなく、ウィーンで学んだこともあり、コミュニケーションもスムーズ。素晴らしい才能を備えたピアニストで、彼の音楽的経験も好きです。東京のリサイタルで共演していますが、またご一緒できるのが嬉しいです。

 

 

アルベナさんは音楽一家に生まれて、幼い頃から音楽一筋と聞いています。子供の頃から「将来は音楽家になる」と決めていたのですか? また、オーケストラに軸足を置かれた理由は? 

私の両親は音楽家で、故郷・ブルガリアのソフィアで音楽学校の試験を受けたのは、ふたりのアドバイスがあったからでした。ヴァイオリンを選んだのは自分自身で、です。ピアノという選択肢もありましたが、なぜか当時の私は望まなかった。卒業後、しばらくして歌劇場のオーケストラで弾き始めたことが、私を新たな音楽的思考の世界へと導いてくれました。この頃まではソリストとして演奏する機会の方が多かったのです。楽団演奏で知り得た音楽的知識や作品の複雑さは、音楽家としての自分の可能性を広げてくれました。

 

 

2011年にウィーン・フィルのコンサートマスターに就任して早5年以上過ぎました。ウィーン国立歌劇場からだともうすぐ10年! 楽団をまとめる初めての女性として、最初は戸惑うことも多かったと思いますが、今日までどんなことに気をつけて来られましたか。

とても長い道のりで、ウィーン・フィルのメンバーとともに音楽を作り上げる喜びと尊敬の念に満ちていると同時に、日々異なる状況やさまざまな音楽作品へ挑戦する道でもあります。ますますよい演奏をし、リードしていけるように学び続けています。

 

 

国外での演奏も多いでしょうし、ベストコンディションを保つための健康法などは?

あまり健康維持については考えないのですが、よく眠るよう心がけています。

 

 

来日回数も増えましたね。少しは観光もなさいましたか? 心に残っている訪問地や忘れられない出来事などあれば。また、大阪名物のお好み焼きやたこ焼きなどは召し上がりましたか?

奈良と京都を訪れたときは、とても感銘を受けました。今回の大阪公演でも「時間があれば何か見たいな」と、とてもワクワクしています。大阪名物はたこ焼きしか知らないのですが、気に入っていますよ。すごく日本的な食べ物ですし、世界の美味しい食べ物のひとつだと思います。

 

 

ひとくちに日本といっても、北海道、東京、九州など、地方によって風土や人の気質などが違います。大阪は人が温かく親切で楽しいことが大好きで、ノリもいいです。なにかメッセージをいただけませんか。みんな、アルベナさんの来阪をとても楽しみにしています。

大阪の皆さまに演奏ができることを、心から嬉しく思っています。ザ・フェニックスホールで、たくさんのクラシック音楽ファンにお会いできるのが本当に楽しみです!

 

 

いろいろお答えいただきありがとうございました。本番を楽しみにしています。

こちらこそありがとうございました。