Prime Interview 沼沢淑音さん、藤江扶紀さん

ザ・フェニックスホールが提案する新しいクラシック音楽の楽しみ方
ピアニスト 沼沢淑音さん ヴァイオリニスト 藤江扶紀さん

掲載日:2017年11月30日

プログラム(曲目)が事前には一切明かされないシークレット・コンサート。この一風変わったコンサートは、お客様にアーティストの気持ちになって曲目を想像していただき、普段とは違う角度でコンサートを楽しんでいただこうという趣向です。ただ、数えきれないほどの曲の中からアーティストが何の曲を選ぶかを想像するのはあまりに不可能な事です。そこで幾つかのヒントを用意しました。ひとつ目はテーマです。“赤”というワードから、二人には自由にプログラムを創造して頂きました。また、条件として誰も知らないような曲は選ばないでくださいとお願いしました。ですので、知る人ぞ知るというような現代音楽の曲などは入っておりません。
二つ目の大きなヒントとなるのが今回のインタビューです。方法としては二人に同じ質問をし、答えていただきました。自身の事から今回の企画に関することまで、様々な質問をさせて頂きました。回答の文章は、修正を行わずに掲載していますので、二人の個性がよりはっきりと浮き彫りになっていると思います。全てのプログラム(解答)はコンサート当日に明らかにされます。是非、答え合わせをしに、ザ・フェニックスホールまでお越しください。お待ちしております。
(構成・宮地泰史/あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)

 

テーマは“赤”、曲目は秘密(シークレット)、

想像する愉しさを

 

 

どのようなきっかけで音楽をはじめられましたか?また、音楽を志そうとしたきっかけは? 

沼沢:家にピアノがあり、よく遊びで弾いたりしていたようです。強制的にやらされたことはなく、両親が音楽に携わっていて音楽がごく自然にありました。小学生の頃はとにかく友達に聴いてもらうことが好きで、それがいつも楽しみでよく新しい曲を暇さえあれば弾いていました。いたずらばかりしていた小学生時代は全てにおいて自由で、今でも懐かしいです。

 

藤江:父が音楽を聴くのが大好きで、家には沢山のレコードと、それらを聴くための防音の施されている部屋がありました。また、母がもともとピアノをやっていたこともあり、ひょんなことからヴァイオリンのレッスンを見学しに行くことになったのです。その後、母が「やる~?」と聞いたら、私は「やりたいー!」と頷いたそうです(笑)。小学生の頃から、10日に一度のレッスンに行くのが楽しみで、もう既に、それ以外の道は考えていなかったような気がします。

 

 

好きな作曲家を教えて頂けないでしょうか。また、その理由は?

沼沢:好きな作曲家はたくさんいますが、やはり特別なのはバッハです。宇宙的ですし、ほぼ全ての作曲家とつながりがあるからです。エトヴィン・フィッシャー(1886-1960)(※1)は、「バッハは自分のために、モーツァルトは愛している人のために弾きたい」と確か言っていましたが、僕もバッハを自分のために弾くことが多いです。

 

藤江:好きな作曲家…これは私にとってはいつも難しい質問です。フォーレやラヴェルの、色彩感は強いけれど、穏やかで、しみじみと語りかけてくるような音楽は愛して止みません。しかし、ヘンデルの瑞々しさにも、バルトークやプロコフィエフ、ショスタコヴィッチの前衛的だけれどそれゆえの心地よさにも、ベートーヴェンやブラームスの渋めの重厚感にも、惹きつけられます。

 

 

どのような演奏家を理想としていますか?(目指す演奏家像や好きな演奏家など)

沼沢:理想とする演奏というのは難しい質問ですが、アポロンとデュオニソス、どちらかが欠けずに両方が共存していたらいいなと思っています。演奏家は基本的には古い時代の人達が好きです。弦楽器が大好きでピアノ以上に聴く機会が多いです、ダニール・シャフラン(1923-1997)(※2)、ヴァイオリニストではタイプは違いますがナタン・ミルシテイン(1903-1992)(※3)やクリスチャン・フェラス(1933-1982)(※4)が好きです。

 

藤江:演奏している時間もしていない時間も、音楽に対して、人に対して、いつも真っすぐ向き合っていられる音楽家でいたいと思っています。歳を重ねていく上で、少しずつ理想は変わっていくものだと思いますが、いつの時も、目の前にある曲、その作曲家に敬意を持って取り組みたいです。

 

 

普段、演奏会のプログラムを組む時にどういう事を考えますか?

沼沢:プログラムを組む時には、コンセプトにもよって、もちろん違いますが、プログラムの最初にどちらかというと形象の美しいアポロン的な趣の曲を選び、後半に向けてそれを壊すようなデュオニソス的な破滅的なものを選ぶことが多いような気がします。

 

藤江:お客様に自分の音楽を充分に楽しんでいただけるプログラムであるかどうか、また、今の自分が成長することができるプログラムかどうか。

 

 

今回の企画についてどう思われましたか?(曲目をシークレットにすることについて)

沼沢:曲目をシークレットにして演奏させて頂くのは初めてですが、楽しいまた素晴らしい企画だと思いました。僕がイメージしている赤には独断と偏見があるかもしれませんが、また聴きに来て下さる方のイメージとの違いや共通点なども楽しめたらいいなあと思います。

 

藤江:味深い企画だと思います。周りの方も、色々想像してくださっていて、なんだろう赤のプログラム。。〇〇かな、どうかな、と声を掛けてくださる方がいらっしゃいます。今は明かさないように必死ですが、それを楽しんでいます(笑)。

 

 

音楽と色にはどのような関係があると思いますか?

沼沢:実際にスクリャービンのように共感覚を持つ人物がいますし、カンディンスキーは色と音との内的な結び付きを意識して絵を描き、確かに音と色には強い相関性があると思います。音楽の中ではそれが複合的に組み合わさり万華鏡のようで、それに加えて五感や経験、あらゆる感覚が結び付いた総合的なものになると思います。そこにある種現実世界を離れた宇宙へとつながるような、本当の意味での精神の自由な世界があるような気がします。

 

藤江:とても強い結びつきがあるように感じます。例えば絵画を見ているとき、夕焼けを眺めているときにふと頭の中に音楽が流れだすことがあるように、逆に音を作るときに色のイメージを持って取り組むことも少なくありません。

 

 

お客様にひとこと。今回のプログラムの聴きどころなど。
沼沢:ザ・フェニックスホールで演奏させて頂くのは二回目なのですが、この素晴らしいホールで演奏させて頂くことが大変嬉しいです。曲目はここには書くことはできませんが、それぞれ全く違う性質、性格の曲が並んでいます。お忙しい中聴きにきて下さるお客様に感謝とともにもし音楽を分かち合えることができたら大変嬉しいです。

 

藤江:今回のプログラムでは、私なりに様々な“赤”を表現できそうな曲を選んでいます。
色や音のイメージは人それぞれに多様だからこそ、音楽や表現の可能性も無限に広がるように感じます。お聴きいただく皆様に、新鮮な、時にドラマチックな、あるいは懐かしい、幅広い“赤”のイメージをお届けすることができれば光栄です!

 


※1)エトヴィン・フィッシャー(1886-1960)スイス出身のピアニスト。世界で初めてバッハ「平均律クラヴィノーヴァ」の全曲録音を行った。
※2) ダニール・シャフラン(1923-1997)ロシア出身のチェリスト。
※3) ナタン・ミルシテイン(1903-1992)ウクライナ出身のヴァイオリニスト。
※4) クリスチャン・フェラス(1933-1982)フランス出身のヴァイオリニスト。