Phoenix Spot いちおし公演情報 打楽器奏者・中村功さんに聴く

「アキラ」との思い出

掲載日:2015年5月25日

7月のパーカッション・トゥデイ
<中村功と仲間たち>公演で
作曲家・宮川彬良さんと共演

打楽器奏者・中村功さんに聴く

 

作曲、編曲、ピアノ演奏。指揮や軽妙な語りで音楽の楽しさを伝え続けるミュージシャン、宮川彬良さん。「Osaka Shion Wind Orchestra(旧・大阪市音楽団)」や「アンサンブル・ベガ」での活動を通じ関西でもお馴染みの「才人」です。そんな宮川さんがこの夏、ザ・フェニックスホールに登場します。大阪出身の世界的打楽器奏者、中村功さんのプロデュースで7月末に開催されるシリーズ公演「パーカッション・トゥデイ<中村功と仲間たち>」最終回。2人は1980年代に東京藝大で学び、東京のポップス音楽シーンで協働を重ねた仲間。現代音楽の名手として日欧で評価の高い中村さんと、お茶の間の人気者・宮川さんの接点は。中村さんに聴いた。
(あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール 谷本 裕)

 

 

 洗練と泥臭さ 併せ呑む才人

 

 

年月

年月を経ても、友情は変わらず 今年1月、旧交を温めた中村功さん(右)と宮川彬良さん=大阪市内

 

 

 

 アキラは僕と同じ東京藝大の出身で、2年下。オヤジさんが『宇宙戦艦ヤマト』で有名な作曲家宮川泰さん。アキラ自身、学生時代からポップスの仕事をしていたんですが、僕は卒業するまで彼のことは知りませんでした。僕は4年の春、父を亡くし、自活しなくてはならなくなった。「芸術としての打楽器音楽」から離れ、当時、売れっ子歌手の岩崎宏美さんのバックでパーカッションを叩き全国ツアーしたり、スタジオミュージシャンとして映画音楽やCM音楽の録音に加わったりするようになりました。
 1981年、打楽器科を卒業後も、そんな仕事が次第に増え、劇団四季が日生劇場で初めて開いた生オーケストラ版バーンスタインの「ウエストサイド物語」や、東京ディズニーランドでのこけら落としのミュージカルでも演奏するにようになりました。クラシックの教育を受け、当時はブラジルのサンバにハマっていてラテンリズムにも強い。「硬軟両様」のプレーヤーとして重宝がられたようです。彼と出会ったのは、ちょうどその頃。荻野目慶子さん主演のミュージカルの仕事に行ったら、音楽を担当していたのがアキラでした。
 当時の僕の音楽性は、どちらかというと泥臭いものが好き。でもアキラは違った。アメリカンポップスの薫りを身に着け、洗練されたセンスを持っていました。ある時、彼が(アメリカの人気兄妹デュオ)カーペンターズのカセットテープをくれた。ヒット曲「イェスタデイ・ワンス・モア」が録音されていて、中のハイハット(ドラムセットで用いるシンバル。上下2枚セット。ペダルで鳴らす)を聴けという。裏打ちリズムの絶妙な間。微かだけど、とっても印象的な音色。それまで触れたことのない、語りかけるようにソフトなパーカッションでした。「イサオちゃん、こんな音出せたら良いネ」。ポップスの感覚と奥深い世界を教えてくれた。後輩ながら尊敬するようになりました。
 それから随分、一緒に仕事をしました。アキラは、新人歌手のデモ音源の編曲や制作を手掛けていた。彼のピアノと僕のドラムやパーカッション、ギターやベースの仲間と作り上げていくんです。みな、昼間は忙しい。セッションは夜中。明け方までスタジオに込もってね。でも若かったし、何より楽しかった。単に生活のための仕事というより、心が通い一緒に音楽を作る素晴らしい仲間でした。アキラは作曲科に在籍していて、きちんとした勉強をしながら、芸術的な現代音楽の世界には入り込まず、ワールドワイドな音楽を自分の中に取り込み、多くの人々が楽しめる音楽活動としてプロデュースする道に進みたかったんだと思います。
 僕はその後、夢を抱いてドイツに留学。そのままドイツを拠点に演奏と教育に携わるようになった。アキラとはふっつり連絡が途絶え、4半世紀も経った。ところが7、8年前だったか、僕が大阪に戻ってきた際、彼が大阪フィルと続けていたポップスコンサートが折良く有り、出掛けました。若い時代からの、シンフォニックなサウンドへの志向はそのまま。クラシック、ポピュラー、映画や舞台の音楽などが見事に一体化したステージに触れ、「あぁ、あのアキラの世界や!」と感無量でしたね。打ち上げで久々に呑み、「また一緒にやろう」と約束したんです。
 今回、彼にピアノと打楽器のための新作を委嘱しました。でも直前に仕上げなくてはならないミュージカルの作曲があって極端に忙しいようで、どんな作品になるか、今は全然、分かりません。おそらく土俗と洗練が融合する素敵な作品だと思います。公演では阿倍野王子神社のだんじり囃子や、東京在住時代の仲間とのサンバ演奏があり、クライマックスは正に祝祭的な、心浮き立つ公演になることでしょう。僕たち2人の、楽しいトークにもご期待ください。(談)