ヴァイオリニスト木嶋真優さんインタビュー

掲載日:2003年2月5日

2月7日に登場するヴァイリニスト木嶋真優さんは12月に14歳になったばかり。ふだんは宝塚の中学校に通う普通の少女だが、楽器を奏でる時はまさに「情熱の塊」。たくましい音楽が全身からほとばしる。幼い頃から国内のコンクールに入賞を重ね、昨秋は若手ヴァイオリニストの登龍門として知られるポーランドのヴィエニアフスキ国際コンクールジュニア部門で最高位(1位なしの2位)を獲得した。21世紀に飛翔する"期待の星"に音楽にかける思いを聞いた。

――ヴァイオリンを始めた経緯から話して下さい。
母(真理さん)がピアノを弾きますし、父(正憲さん)も音楽が大好き。3歳半のとき何かやらせようということになったんですが、手が小さくピアノは早過ぎる。小型もあるヴァイオリンをと始めたんです。母に言わせると、いつも練習を始めるまでくずぐずしてたそうですが、弾き出すと夢中になったらしい。でも小学校2年からは自分の意思で弾くように変わりました。きっかけは、94年6月に受けた五嶋みどりさんの公開レッスン。彼女が協奏曲を弾く舞台やリサイタルを聴いたことがあり、すごく透明感のある音色が大好きで、憧れていました。実際の五嶋さんは、音楽がとても好きですごく優しい人。私を子供でなく、一人の演奏家として扱ってくれました。ヴァイオリニストになろうと決めたのはこの時。その後、いろんなコンクールで金賞をもらって、さまざまな舞台も踏ませてもらっています。

――コンクールのほか、音楽的に刺激を受けたのは?
1996年と97年、宮崎国際室内楽音楽祭で(世界的なヴァイオリニスト)アイザック・スターンに出会ったこと。レッスンを受け、他の参加者へのレッスンを見て、音楽の深さや作曲者の意図の大切さが理解できるようになりました。ある朝、ホテルのレストランで偶然出会ってサインをもらったんです。「甘い音色をありがとう。ゆっくり練習し、音楽的なフレーズをよく聴くこと」ってアドバイスをくれた。視線が鋭くて威厳があって、彼にはおっかない印象が強いけど、明るくて優しいところもあると知りました。当時、私は体を大きく動かして弾く癖がついていた。でも「情熱が空回りしてるよ、お客様が眼を閉じて聴いても、君の狙いがキチンと分かる演奏でなくては」って諭されました。一方で徳永(二男。前N響コンサートマスター)さんの弾くヴィヴァルディの「冬」(協奏曲集「四季」の終曲)は、密度の高い太い音色が新鮮な魅力でしたね。

――ふだんの練習は。
毎日午後6時から11時ごろまで弾くようにしています。今も楽器を触るまでは弾くのが嫌。「モーニング娘。」が出るテレビを見たいし、友達とも遊びたいですから。でもいったん始めると時間が分からなくなるほど集中します。楽器が体の一部になる感じ。どうしても遊びたい時は朝4時に起き、6時まで弾いて日中に自由な時間を作ります。コンクールやレッスンで学校を休むことも少なくないですが、友達に抜けた部分を教えてもらったり、本当に助けてもらっていて心からお礼を言いたいです。

――今の先生は。
小学校5年から習ってる小栗(まち絵)先生と工藤(千博)先生は、指使いでも曲の解釈でも、私に一番合うやり方を尊重して下さる。でも、私なりの裏付けがなくてはならないので、音楽をよく考え、他の人の演奏も十分消化してレッスンに臨むようにしています。私にとって初の国際コンクールだったヴィエニアフスキ・コンクールで力を発揮できたのは、何よりお2人のお陰。「世界」に通用する指導に大変感謝しています。99年から年3期、横浜で習っている(ザハール)ブロン先生はとても厳しい。言われたことをその場で直さないと怒鳴られちゃう。毎回、必死です。実はヴィエニアフスキでブロン先生は審査員の1人でした。 発表の時、 「おめでとう」って言ってくれたんですけど、あんなうれしそうな顔、見たのは初めてでした。

――コンクールはどんな様子でしたか。
参加者は皆それぞれの国では高く評価されていて有名な人ばかり。中国の演奏家などは付き添いの人がとても多かったりで、本当に国の看板を背負って来ている様子。これは日本で感じたことのない雰囲気でした。出発前、日本で「きっと1位ね」「楽しみにしてるよ」と、いろんな方から言われたんです。国内で評価されてきた私が、国際舞台ではどうなのか、注目されていたと思います。自分のプライドもあるし、先生や両親に支えてもらいましたから、期待にこたえたかった。本番前、近くの教会で「持っている力をすべて出し切れますように」と神様に祈って臨みました。聴衆はとても温かった。日本だと、ミスしないか、聞き耳を立てている気がすることが多いですけど、向こうでは音楽を本当に楽しんでくれる。だからとっても弾きやすかった。欧州の参加者の演奏も聴きましたが、おしゃれだったり、エレガントだったり…。技術優位の日本とは随分違うなと痛感しました。今は明日にでも、欧州に留学したいです。

――最後に今回のプログラムについて。
ブラームスやソナタやベートーヴェンの協奏曲も大好きですが知識や経験が足りないのか、ピンとこないところがある。今回は体力的にも感覚的にも14歳の私にぴったりくる曲ばかり。特にラヴェルのツィガーヌはずっと弾きたかったし、秋にポーランドでも弾いた思い出の曲。楽しみにしててくださいね。

 

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きしま・まゆ 神戸市生まれ。ヴァイオリンを林泉、戸上和代、江藤俊哉、小栗まち絵、工藤千博、ザハール・ブロン、ベルリンフィルのリュディガー・リーバーマンの各氏に師事。1998年全日本学生音楽コンクール大阪大会第1位。日本クラシック音楽コンクール2位(1位なし)。2000年ヴィエニアフスキ国際コンクールジュニア部門最高賞。京都市長賞、神戸市長賞、IMA音楽賞、松方ホール音楽賞を受賞。トルコ・イズミール響、関西フィルなどと共演。宝塚市立光が丘中2年。
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